伝統の知恵を生かし、ラグジュアリーに仕上げた進化系町家


落ち着きと風格のある正面から見た外観。道に面した南側はビルトインガレージにし、2台ゆったり駐車できる広さにした。その上部はLDK。

リビングはダイニングよりも約30㎝低い位置にし、こもるような空間に。LDKは天井にも高低差をつけて単調な印象にならないよう配慮が。

リビングの床は、落ち着きのあるウォルナットを採用。段差をつけてさりげなくゾーニングしている。

木材と石材のバランスが絶妙な、凜とした印象のエントランス。高窓からの光と階段まわりのテラスから陽光が差し込み、常に明るい。奥の収納は扉で隠した。

テラスに面した大開口がH邸の特徴。階段を通りながら時の移ろい、光の変化を感じられる動線とした。

リビングの奥にある大学生のお嬢さんの部屋はドラムの練習、読書を楽しむ趣味室を兼ねている。集中する時間を過ごせるように、あえて暗めの壁紙を選んだ。隣接した住宅からの視線を避け、高窓を設けた。

室内全体に光が届くよう、中央を坪庭にする町家伝統の知恵を現代流にアレンジしたテラス。採光目的だけでなく、くつろげる居場所にした。

玄関を入ってすぐの場所に和室を配した。建具はあえて古典文様の和紙を選択。枠のない太鼓張りにして、現代的な雰囲気にすることに成功。

伝統を守りながらも、天井の高低差や間接照明など、洋室の手法を取り入れてモダンさをプラスした和室。床の間の横をテラスへの開口、動線にするなど、この空間を孤立させず、距離を保ちつつLDKや向かいの寝室とうまくリンクさせている。

1.畳を囲む風合いのあるなぐり加工の板を施した。畳はシャープな印象の正方形に。/2.和室の採光もテラスから。外部に影響されない、静かでリラックスできる空間に仕上げた。夜は間接照明で柔らかい光がまわる。

3.通常よりかなり広く、開口を多くした明るいウォークインクローゼット。ワードローブの内容や数を緻密に計算することで、ストレスなく収納できる機能性を重視。/4.敷地中央のテラスから見上げた風景。細長く切り取られた空へ視線が抜けていく。
奥行きのある敷地を生かし、上下にも広がるのびやかな空間に
SE構法で再構築した
洗練を極めた現代の町家
南北に伸びた長い敷地が京都の町家ならではの形状。H邸もまた伝統的な手法を取り入れ、中央の庭から光を届けている。「小さな坪庭でも採光は可能ですが、ゆったりと過ごせるテラスとしても活用できるよう、ゆとりのある広さにしています」とデザオ建設の佐藤三紀雄さんは語る。奥行きを感じさせる長い廊下も町家ならではの特徴。それを現代の技術により、ラグジュアリーな空間に昇華させた。1棟1棟、構造計算を行って強度を確認できるSE構法では、奥まで見通せるヌケが可能となる。例えば階段まわりのスペースも、柱で視界を遮らない開けた空間になった。
「大開口のビルトインガレージや、その大スパンの上部の段差もSE構法だからこそ実現できたことです」と佐藤さん。“大スパン”とは、柱と柱の間隔が広い大空間のことを意味する。H邸は、2台駐車できるガレージの上を同じく大空間のLDKとし、リビングをダイニングキッチンより1段低いダウンフロアにした。
床や天井に段差を設け
縦への奥行きも演出
LDKがホテルライクな洗練された空間に仕上がっているのは、縦方向への伸びも効果大。空間に変化をつけるのが難しい細長い敷地だが、床や天井の細やかな段差や、間接照明によりそれを強調することで、リズムが生まれた。また大判タイルや大理石のテーブルなど、光沢のある素材の役割も大きい。テラスや高窓からの光を受け、つややかに輝き、ラグジュアリーな雰囲気となった。
ゲストルームとなる和室もまた、伝統をモダンに進化させた遊び心あふれる空間。エントランスから見える入り口のふすまは和紙に木版手刷によって装飾した唐紙を採用。茶室のふすまなどで見られる、縁を見せない太鼓張りという手法でモダンな印象に。ダークグレーの壁の床の間、削ったままの風合いを楽しむなぐり加工の木材で畳を囲むなど、既成の概念にとらわれず伝統的な意匠を生活に取り入れた。和室もほかの部屋と同様、テラスから採光している。また天井に段差をつけ、ここでも縦への空間の広がりを意識した。
注文住宅ならではの自在さで
各空間をオーダーメイド
さらにH邸で特筆すべきなのはウォークインクローゼットの端正さである。ワードローブが整然と並び、まるでブティックのように美しい。「収納スペースでも薄暗くなく、日当たりの中で服を選べる心地よい場所にしたかったんです」とHさんは語る。税理士として各界の経営者と会う機会の多いHさんにとって、スーツはいわば戦闘服。ファッショニスタのクローゼットは、ある意味、趣味を楽しむ空間でもある。「シャツの枚数から、ネクタイやベルトの本数まで確認し、機能的に収納できるキャビネットを造作しました」と佐藤さん。綿密なプランニングの結果、機能的で快適なクローゼットが完成した。
その土地の持つ力を引き出し、住み手の願いをかなえられるのが注文住宅の魅力。「わがままに、こうしたい、こうありたいという思いをこちらにぶつけてほしい。それを形にするのが私たちの役目です」と佐藤さんは語る。理想の住まいは人それぞれ。自分たちにとって大切と思う空間、機能にとことんこだわる「ポジティブわがまま」は、理想の家づくりの近道となる。
取材・文/間庭典子
H邸
設計施工 | デザオ建設 | 所在地 | 京都府京都市 |
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家族構成 | 夫婦+子供2人+犬1匹 | 敷地面積 | 213.08㎡ |
延床面積 | 247.40㎡ | 構法 | 木造SE構法 |