視覚効果が広がりを生む都会の邸宅


変形地による視覚効果で、シンプルな空間に思わぬ奥行きと広がりがもたらされた。やむを得ずカットすることになった屋根の部分も、空を望む高窓に。

キッチン奥のパントリーからの眺め。ワインセラーも置かれ、十分な収納があるパントリーだが、リビングからは見えない。キッチンは作業がしやすいセパレートタイプをリネアタラーラに依頼。風合いのあるマーブル柄にし、白い空間に変化をつけた。

1.高窓からの柔らかい光がダイニングキッチン全体に回る。キッチンの大理石の模様や木材の色味まで、素材はY夫妻が吟味し、理想の空間に仕上げた。/2.エレガントな白い空間に、スケルトンの階段が軽快に伸びる。床材は無垢フローリング専門メーカー、マルホンで調達した。

玄関ホールの正面に坪庭があり、明るく開放的な空間に。土間と玄関ホールのタイルは同色にし、段差も最小限にしてワンフロアに見える視覚効果を狙った。駐車場のあるRC造の地下階から2階LDKまで行き来できるエレベーターも設置。

坪庭に面した1階の浴室。洗面所との境はガラスにし、広々と見えるようにした。キッチン同様、やさしい印象の白いマーブル柄で統一感を出した。

白黒茶をベースにしたシンプルモダンな空間になじむよう、ソファはサンドベージュを選択。座ると近隣の住宅やビルが隠れ、目線の先には木々しか見えないように計算されている。リビングはキッチンやダイニングとは角度がついているため、仕切りのない空間ながら程よい距離感がある。

美しい新緑の借景も楽しめる、バルコニーのアウトドアリビング。心地よい風を感じながら、日々の喧騒を忘れて贅沢な時間が過ごせる。
機能的でエレガントなキッチン&ダイニング
高低差や変形地を生かし
唯一無二のLDKが完成
Y邸のテーマは「デメリットをメリットに」。東京都港区の緑豊かな高級住宅地だが、高低差2.5mの傾斜地かつ変形地ということで、どんな家が建つかは未知数だった。「『本当にこの土地に家を建てるんですよね?』と思わず念押ししたほどです」と設計担当のテラジマアーキテクツの深澤彰司さんは笑いながら振り返る。他社に相談してほぼ諦めかけていた住み手のYさんだが、深澤さんに提案されたプランを見て、こんな家に住めるならと土地の購入に踏み切った。その結果手に入れたのは、唯一無二の広がりを感じられる家。不利な条件を逆手にとり、耐震等級3を確保しつつも、ダイニングキッチンとリビングが斜めにつながる大空間を実現した。
公道に面した入り口は地下階をRC造にしてゆったりとした駐車場に。車を2台停めてもまだ余裕がある広さなので、通常はネットを張って野球少年であるお子さんのトレーニングスペースとしても活用している。1階から3階は木造SE構法を採用。エントランス正面には坪庭を配し、自然光を取り入れた。1階には寝室や浴室、3階には子供部屋を配し、2階を広々としたLDKにした。
各空間を斜めにつなぎ
天窓や外部空間から採光
ワンフロア全体を使ったLDKは、パズルのピースを組み合わせるように各空間を斜めにつないでいる。そのため、どこから見ても奥行きを感じられるという思わぬ視覚効果が。階段に面したダイニングは吹き抜けにし、高さにも変化をつけた。デメリットをメリットに変換したのは、坪庭やバルコニーなどの外部空間だ。バルコニーはアウトドアリビングとして活用できるよう、シンクも設置した。リビングからバルコニーを見渡すとちょうど近隣の住宅が隠れ、近くの学校の校庭が借景となり、木々の緑が広がる。
また、建蔽率や斜線制限で建物上部を斜めにしなくてはならないダイニング西側には、高窓を4つ連ねた。消去法で選択したこの開口が、採光と眺めに思わぬ功を奏した。食卓を囲みながらも近隣の目が気にならず、いつでも青空が仰げるのだ。LDKからは収納やトイレへのドアが見えないなど、生活感を出さないよう配慮し、ゲストを招くのにふさわしい場とすることも心掛けた。
デザイン性をさらに高める
選び抜かれた素材
「あらゆるショールームに実際に足を運んでいただき、実物の質感を確認しながら、納得のいく素材を自身の感性で選んでいただいています。Yさんの行動力、審美眼にははっとさせられました」と深澤さん。また、イメージの共有を重要視しているため、初回はテラジマアーキテクツの担当設計士が住み手の家を訪問して打ち合わせをする。現状を瞬時にリサーチできるからだ。そしてレストランやホテル、ファッションやアートなど、住宅以外のビジュアルも含めた、理想とするイメージのコラージュ制作をすべての住み手に依頼。住み手が憧れる暮らしのイメージをベースにしながら、実際の生活に必要な収納や設備、間取りなど、具体的な設計プランを練っていく。
「私たちに負担がかからないよう、知らぬ間に願望をくみ取ってくれて、ストレスフリーでした。不可能を可能にする、NOのない家造りだったと思います」と奥さま。土地の個性やY夫妻のセンスを引き出す工務店の手腕により、上質な暮らしを支える家が完成した。
取材・文/間庭典子
Y邸
設計施工 | テラジマアーキテクツ | 所在地 | 東京都港区 |
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家族構成 | 夫婦+子供2人 | 敷地面積 | 143.87m² |
延床面積 | 245.96m² | 構法 | 木造SE構法+RC造 |