心地よいパティオを囲むL字型のフラットハウス


広々としたパティオはバーベキューなど、さまざまな用途に活用しているという。斜めの変則的なL字型になったことで囲まれた感じが強まり、落ち着いて過ごせる。

愛車を屋根付きのガレージに収容することは当初からの要望の1つだった。玄関右側に屋根形状や外壁の仕上げをそろえて建物と一体になるようつくり上げた。

真南に向けて開口部が連続するLDK。サッシの上下の枠を隠すことですっきりとした納まりを実現した。冬の低い日差しは室内の奥まで取り込み、夏の高い日差しは軒でシャットアウトする。

1.エアコンは天井にスペースをつくって目立たないよう納め、空間をすっきりとまとめた。後ろの扉を開けるとファミリークローゼットがあり、ランドリールームや洗面・浴室へと続く。/2.シンプルなインテリアにさりげなく飾られているのは、アーティストが描いた家族の似顔絵。

キッチンはレンジフードや水栓、収納扉も含めてすべて黒で統一し“かたまり感”を演出している。冷蔵庫や炊飯器などの家電製品もすっきりと背面の扉内に隠せるようにした。

リビングに入るドアもガラスで天井までのサイズとして、空間のノイズになってしまう線を減らしている。テレビの後ろは繊細な縦のラインが伸びる木質パネル。上下に間接照明を施した。

玄関横に設けた和室。ユニークなデザインの障子越しに柔らかな光が差し込む。ゲスト用に設けたものだが、ご主人のお気に入りの休憩場にもなっている。

玄関ホールから廊下に進んだところにある造作の洗面。壁にタイルを貼って空間のアクセントにした。ミラーは奥さまのお気に入りのもの。

トイレのアクセントクロスはご主人が海外製をセレクトした。

ツインボウルの家族用洗面。ハイサイドライトで光を取り込む。

3.玄関を上がるとパティオを眺めながら歩く長い廊下がある。床はフロアタイル。陶製のタイルに比べて硬さや冷たさがなく、歩きやすい。ご主人が1枚1枚模様をチェックし並べ方を決めた。廊下の右手には個室が並び、突き当たりを左に折れるとLDKに進む。/4.玄関を入った正面の壁にはリビングと同じリブパネルを使った。後ろに回り込むとシューズクロークがあり、そこからも室内に出入りすることができる。
パッシブデザインのために採用した真南を捉える斜めのライン
道路側からの視線を遮る2枚のコンクリート塀の間を抜けると、目の前に広がるのは、L字型に建てられた平屋の建物の懐に大きく広がるパティオ。「わざわざ旅行に出かけなくても、リゾートにいるようなくつろぎのある暮らしを楽しみたい」というSさんの要望に応えてプランニングされたものだ。パティオはそのままフラットに室内につながり、内外一体で、ときには家族や友人と賑やかに、ときには1人でゆったりと、さまざまな過ごし方ができる。
Sさん家族は、以前はマンションで暮らしていた。しかし3人の子どもたちはこれから育ち盛りを迎える。このままでは早晩手狭になると考え、奥さまの実家の隣に新たに土地を取得して住まいを新築することにした。土地には比較的ゆとりがあるから平屋で建てることを考えていたが、その構法としてSさんが早くから注目していたのはSE構法だった。耐震性能の高さや大開口・大空間が可能になることが魅力だった。近くにSE構法で建ててくれる工務店がないかと探して、ニケンハウジングに出合った。
敷地は南側に道路が通っているので、プライバシーの確保が難しいため、光と風を楽しむ大開口を設けながら、絶妙な位置と高さに塀を立てることで、近隣からの視線を気にせずに過ごせるようにした。また、二ケンハウジングの森瀬将文さんは、玄関を入ってパティオを左に見ながら長い廊下を進んでリビングに入るというプランを提案。実用性よりは、次に展開するシーンを楽しみにしながら家のなかを移動するという非日常感を優先して生まれたデザインだ。
さらにこの住まいには、もう1つ建築上の工夫がある。それがLDKのパティオ側に伸びる斜めのラインだ。普通に考えれば、細部の取り合いや納まりが複雑になる斜めのラインは避けたいもの。あえて採用したのは理由があった。「Sさんの要望の1つにパッシブデザインを取り入れたいというものがありました」と森瀬さん。パッシブデザインとは、設備機器の力に頼り切るのではなく、建築そのものの工夫で日照や通風をコントロールし、四季を通して快適な室内環境を確保しようというものだ。「メインの開口部を真南に向ければ、この敷地で最大限の日差しを取り入れることができます。また、軒による夏の日射の遮蔽や冬の日射取得も、太陽の高度をシミュレーションしながらどれくらいの長さが適当か、より正確にわかりますから、パッシブデザインが最も有効に機能します。SE構法であれば長いスパンを飛ばすこともできるので思い切って真南に大きな窓を設けました」
シンプルな直線を生かしたインテリアも、Sさん夫妻の要望で生まれたものだ。大きな開口部は、そのままではサッシの四角い枠が連続して見えてきてしまう。開閉しないFIXタイプも活用し、さらに上部の枠を隠すようにカーテンボックスを設けてラインをすっきりと整えた。収納や建具もすべて天井までのデザインで統一し、無駄な線が生まれないようにしている。キッチンまわりは黒で統一した。
構法の研究はもとより、場所ごとのタイルや壁紙の選択も楽しみながら進めたSさん。廊下のタイルは1枚1枚異なる模様をあらかじめすべてチェックし、その並べ方まで指示しながら住まいを一緒につくりあげていったという。その熱意が美しい仕上がりの住まいにつながった。
取材・文/酒井 新
S邸
設計施工 | ニケンハウジング | 所在地 | 愛知県 |
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家族構成 | 夫婦+子供3人 | 敷地面積 | 758.97㎡ |
延床面積 | 253.55㎡ | 構法 | 木造SE構法 |