町家スタイルの優美な二世帯住宅


近隣住宅に密接した南北に長い敷地なので、伝統的な町家同様、中央に坪庭を配した。グレーベージュを基調にした落ち着きのある配色が古都になじむ。

将来を見据え、玄関の幅は車椅子が入るゆとりを持たせ、緩やかな段差に設計。L字形の手すりはヌメ革でカバーされたエレガントなデザインにした。

南北に長い敷地を生かし、キッチンカウンターに連なる伸びやかなダイニングに。キッチンに設けた天窓と坪庭からの自然光により、十分な採光を実現

パナソニックのシステムキッチン「Lクラス」を選択。奥さまが理想としていたのは収納力に優れた白いキッチン。天板は黒にして全体を引き締めた。

ギャラリーのような玄関ホールの奥がお母さまの部屋。左手にはエレベーターを、右手には坪庭を配した。二世帯住宅のように1階と3階で世帯を分け、2階のLDKと浴室を共有スペースにしている。

エレガントな印象のお母さまの部屋。蒔絵をあしらったテレビ台は1856年創業の宮崎家具の和家具。

Aさんの寝室の壁面にはヴィンテージトイのコレクションを飾るための棚を造作。棚の内部にはミラーを仕込んで、ライトアップできるショーケースにした。
京都の中心部にふさわしいモダンな町家スタイル
南北に長い敷地を生かす
坪庭からの光と風
御所から近い京都の町の中心部に位置するA邸。町家があったその土地は間口が狭く、南北に長い敷地だった。「元の家は北側がじめじめとしていて、物置にするしかなかったそうです」と奥さま。東西両側は近隣と密接し、採光は望めない。そのため暗くなりがちな中央部分に坪庭を配置し、キッチンの上に柔らかな光を取り込む天窓を設けた。「南北に吹く京都の卓越風を取り込めるよう窓を配置し、通風もしっかり確保しています」と設計を担当したデザオ建設の佐藤三紀雄さん。町家の伝統的な坪庭をパッシブデザインで生かし、快適な環境をつくり出した。
1階はガレージとお母さまの寝室、2階全体を共有のLDKにし、3階に夫婦それぞれの寝室を配した。玄関のドアを開けると棚に飾られた花がゲストを迎え、道なりに曲がると右手側にアルコーブが。床柱や床板は以前の家のものをそのまま活用している。さらに進むと右手に坪庭があり、正面はお母さまの住空間への扉のステンドグラスが輝く。ギャラリーを経営していたというお母さまのアイデアで、進むたびに視点が変わり、作品を楽しめる動線に。季節やお招きする方の好みに合わせ、何をテーマにどう飾るかを考えるのも楽しみなのだそう。これから先を見越して、通路は車椅子でも移動しやすい幅を確保し、エレベーターを設置した。1階のトイレも介助しやすいよう洗面所も一緒の広々とした空間にした。
落ち着いた色合いの
洗練された都会派LDK
「2階は親子で共有するシンプルモダンなLDK。床や建具に上質なナラ材を選び、珪藻土壁、タイルなど白を基調にまとめた。「自然素材を使いつつ、ナチュラルすぎないシャープなイメージにまとめたかったんです。白いキッチンに黒い天板で引き締めようと決めていました」と奥さま。毎日過ごす空間なので、店舗やモデルハウスのような派手なデザインではなく、飽きがこない空間にし、清掃が楽なように機能性も重視した。
「リビングは塗り壁、無垢床にして、トイレや洗 面は汚れてもサッと拭き取りやすい汚れ防止クロスやサニタリー用フロアにしました。ツヤ感を抑えたものや自然素材に近い質感を選ぶなど、見た目の違和感がないように心掛けました」と内装全般を担当したインテリアデザイナーの佐藤由理さん。ヴィンテージトイのコレクターであるAさんの要望で、ディスプレー棚の設計も手掛けた。「鏡張りを何面作るか、三面鏡やダウンライトで実験を重ねたのはいい思い出です」と振り返る。その結果、理想のライティングの棚に仕上がった。
スタイルが違う3層を
調和させて一つの家に
3階はご夫婦の個室を配置。北側には柔らかな印象の書斎付きの奥さまの部屋、南側はディスプレー棚のあるシックなAさんの部屋に。「1階はエレガント、2階はシンプルモダンと雰囲気が変わるので、床材を同じにしてつなげました」と佐藤さん。部屋に合わせて選んだ家具や設計した造作棚も、家全体の調和を生み出している。
旧市街地で京都でも最も景観条例が厳しい中、防火壁をアクセントにした外観デザインを採用。大判タイルでテーパー形状にし、限られた間口を広く見せる効果も狙った。また、伝統的な格子も取り入れて、プライバシーも確保している。町家の知恵を生かしつつ、洗練された現代の暮らしになじむ、進化した町家スタイルが実現した。
取材・文/間庭典子
A邸
設計施工 | デザオ建設 | 所在地 | 京都府京都市 |
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家族構成 | 夫婦+母親 | 敷地面積 | 93.25m² |
延床面積 | 165.80m² | 構法 | 木造SE構法 |