中庭を回廊で囲んだミニマムな平屋








中庭を回廊で囲んだミニマムな平屋
限りなくシンプルに徹した空間はアレンジ自在な白いキャンバス
無駄な装飾は何もなく、凛とした雰囲気が漂う京都市のS邸。「最初にお伝えしたのは美しい空間で生活したいという希望でした」と、住み手のSさん。グラフィックデザイナーとして活躍し、休日には自身の創作に励むSさんならではのアトリエ併設の住まいだ。「まっさらな白いキャンバスのような空間を、暮らしながら自分たちでアレンジし、自由に彩りたかったんです」とも語る。
その要望を受けてビルド・ワークスの設計担当、河嶋一志さんが提案したのは、中庭を囲む回廊がある平屋のプラン。家の中央には約26㎡の広々とした中庭を配し、室内のどこからでも外部を感じられるようにした。木造でありながら外壁、土間やリビングの一部の壁にモルタル仕上げを採用して、研ぎ澄まされた静謐さを強調。このような無機質な空間には、家具やアートなどもよく映える。
美しい非日常空間と生活しやすい動線を共存させる
河嶋さんの発案で、土間やキッチンに段差をつけるなどして、さりげなく空間が分けられている。「リビングと調理スペースが区別されて、気持ちの切り替えもできます」と奥さま。約15㎝の段差を設けたキッチンには中庭を見上げられるアングルが生まれ、調理しながら時折、空の様子も感じられる。
玄関から土間、そして同じフロアで続くSさんのアトリエは、画材で汚れても気にならないようモルタルの床を採用した。また、アトリエに造作した長いデスク周りには、手元を明るく保つための小窓も。「子供が成長したら、勉強スペースとして活用したいと
思っています」と、家族の将来も見据えた空間づくりも実践された。
ところでこの家が建つ西京区も、他の京都市内の地区と同様、神社仏閣が多く、景観条例が定められている地区である。しかし、京都市内の住宅を多く手がけ、規制下でのデザインを得意とするビルド・ワークスにより外観もモダンなデザインが実現した。「たとえば屋根は軒を出さなくてはならないので、いわゆるキューブ型の外観にはできません」と河嶋さん。条例では屋根の色も黒、もしくはグレーと指定され、神社仏閣や古い町並
みの景観を損なわないよう規制されている。「フラットな屋根は認められないので中庭部分に向かって下がるような斜度をつけました」。
このように住み手と設計者がそれぞれの美意識を貫いたアーティスティックな外観と内観。眺めて美しいだけでなく、長く住み続けても快適な、一年を通じて心地よい秀逸な平屋が完成した。
取材・文 間庭 典子
I邸
設計 | ビルド・ワークス | 施工 | ビルド・ワークス |
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所在地 | 長野県埴科郡 | 家族構成 | 夫婦+子供2人 |
延床面積 | 110.88㎡ | 構造・構法 | SE構法 |