2025.04.07

歴史を紡ぐ蔵に守られ、ラグジュアリーを極めた邸宅

LDKからも2階からも川面が視界に入るリバーサイドの邸宅

「古きを愛で、今に遊ぶ──。Y邸は敷地自体が他にはない2つの個性をもっています」と京都で多くのSE構法の住宅を設計してきたビルド・ワークスの河嶋一志さん。「1つは敷地の南側に流れる川。岸辺型美観地区であり、吹き抜けを介して2階からも川景色を望めます。玄関には川面や植栽を感じられる地窓を設置し、SE構法ならではの大開口から自然光も取り込んでいます」と河嶋さんは語る。もう1つの個性はなんといっても、築100年の「蔵」。大丸の創業者の邸宅にあったものをYさんの先代が譲り受け、今の地に移築したという歴史的価値のある蔵だ。「新築してもこの蔵は取り壊さず、保存して欲しいというのが母の要望でした」とYさん。その希望もあって、Y邸はこの蔵をぐるりとコの字型に囲むように建てられている。
 
 
新築の住居は川沿いの1階フロア全体をLDKとし、2階には寝室や浴室などの生活空間をまとめた。この敷地近くの川の流れは真っ直ぐではなく、ちょうどY邸の前で湾曲している。「目の前の川に向けてだけでなく、玄関や主寝室では、その川の流れる方向へ目線が抜けるように開口部の位置や目線を誘導する設計しました。それにより、さらにヌケを感じる、広々とした眺めが実現しています」と河嶋さん。約70㎡の柱の無い開放的なLDKの中心は、光り輝くキッチン。柔らかなキルティングのように仕上げたステンレス素材だ。「トーヨーキッチンのショールームで一目ぼれし、家のプランを決める前にこのキッチンを軸に空間デザインをしてほしいとお願いしました」と奥さま。艶やかなキッチンの世界観に合わせて、照明器具やソファ、ダイニングセットに至るまでラグジュアリーなデザインを厳選し、コーディネートしたそう。またソファもシステムキッチン「INO」のエアフロー構造をソファに生かした、同じくトーヨーキッチンの「集(つどい)」からセレクトした。
 
 
さらに既存の蔵の活用は、「自分たち家族が好きなこと、大事にしている時間は何だろうと考えました。夫婦共通の趣味はゴルフなので、ゴルフの練習用レンジをつくろう。そして娘たちが熱中するゲーム、さらに映画や音楽を鑑賞できるホームシアターにしようと思いついたんです」とYさん。結果、シミュレーションゴルフを備えたゴルフレンジ、大画面でゲームに没頭できるホームシアターを既存の蔵のなかに配することにした。同じスペースをゴルフの練習場とシアターに切り替えられるよう、スクリーンやネットを重ねて設置。古い蔵をそのまま維持するのは困難で、快適な室内環境にするためには膨大なリフォーム代がかかってしまう。「予算内に収めつつ、蔵を保存し、かつ有効に活用するにはどうしたらいいかを考え、提案したのが蔵のなかに部屋をつくるという案でした」と河嶋さん。外壁を一新しながらも蔵の趣きはそのままに。ゴルフレンジ兼ホームシアターを蔵のなかに収める2重構造で、防音機能も高まった。さらに蔵の内部はリノベーションしてゲスト用に和室も新設。生活音が気にならない、離れ感覚の和室が完成した。
 
 
古い蔵が新しい命を得て、新しい家と共に次世代に受け継がれるスタート地点となり、これからもY邸の歴史は続いていく。
 
 
取材・文/間庭典子

Y邸
設計施工 ビルド・ワークス 所在地 京都府京都市
家族構成 夫婦+子供2人 敷地面積 344.42㎡
延床面積 225.72㎡ 構法 木造SE構法

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