空中庭園を囲む安らぎの家


日常で使うキッチンと続くダイニングテーブル。床はフラットにし、車椅子でも移動しやすい動線にした。重厚な石造りの壁はキッチンの正面にも採用。

天井高5.3mの迫力あるピクチャーウインドー。石の壁、天井は内部のパネリングを屋外の軒下にまでつなげ、部屋の内と外の境界線をあいまいにした。

ゲストを招くメインダイニングからの庭の眺望も美しい。内外をつなぐ天然石調のタイルやイサム・ノグチの和紙のランプなど、異素材が調和している。

客間でもある2階北側の和室の床の間は壁面に経年変化のように見えるコンクリート系パネルのタイルを選び、光沢のあるうるし調の床板と対比させた。東側の開口からは、枯山水風の庭園を望める。

1.1階にある浴室も坪庭を眺める間取り。タイルは外壁に使われているものと同じトーンのグレーを選び、広がりを感じるデザインに。段差がなく、介護が必要になっても動きやすいバリアフリーなプランニングでもある。/2.ライトアップされた庭木の向こうに市街地の灯りが輝く3階吹き抜け周りのキャットウォークには、アートを飾り、お気に入りの椅子を置いてギャラリースペースに。

エレベーターを設置しているため、ご両親の動線としてはそちらを使用。階段は補助的なものとして、機能よりもデザイン優先で仕上げることが可能に。

3.エレベーターの横にある階段は、コンパクトならせん階段にして収めている。車椅子で動くことができるほかのエリアと異なり、このらせん階段は人一人が素早く移動できる動線スペースを想定している。/4.3階は寝室やゲストルームなどプライベートな空間を配した。軒下も天井と同じフローリングのような木張り仕上げにして、内外まで広がりを感じさせるようなデザインに仕上げている。

JR新潟駅からも徒歩圏内で、幹線道路に近いK邸。中の様子は外からは把握できず、プライバシーが守られている。右側が今までのお宅の庭園をそのまま再現したという2階の空中庭園。

ライトアップすると庭の景色はよりドラマチックに。気候のいい季節は、ウットデッキで過ごすことも多い。
家を守ってきたケヤキの大木とともに、これからも暮らせる住まい
宙に浮かぶ思い出の庭園が
巨大な植木鉢により実現
「いわば巨大な植木鉢を造る発想です」と設計を担当したroomz 星野建築事務所の星野貴行さん。JR新潟駅への幹線道路を広げる区画整理により敷地の縮小を余儀なくされたK邸だが、昔のままの庭園は残したかったそうだ。しかし目の前が交通量の多い道路となっては、以前のような静寂は望めない。そこで提案したのが、以前は1階にあった庭木、庭石をそのままコンクリートの巨大な箱に移植し、2階部分にかさ上げする大胆なプランだった。「ケヤキの木は我が家をずっと見守ってくれた大事な存在。この庭園の植栽のほとんどは、以前からあるものをそのまま移植しました」とKさんは語る。
幹線道路に接する部分に「植木鉢」を配し、庭園を取り囲むようなL字型のプランを採用。「植木鉢」とSE構法による建物本体とは完全に分離しているが、建内外からは一体化しているようにしか見えない。1階はガレージや浴室などの日常生活に必要な機能をまとめ、2階はどの位置からも庭園を眺められる広いLDK、3階を寝室とした。1階からは庭園が望めない分、玄関脇に路地庭を造り、浴室やトイレからも緑を感じられる。
「街の中心地にいながら、里山に滞在しているような安らぎを感じる空間になりました」とKさん。同居する高齢のご両親は家の中で過ごす時間がほとんどであり、庭を囲む大開口によって室内は常に明るい。また、車椅子でもストレスなく移動できるよう、動線はゆったりと、室内は段差がまったくないバリアフリーの設計にした。「トイレの面積も広めにとり、手すりを設置するなど、高齢者にも優しい設計にしてもらいました」とKさん。1階のトイレからは路地庭の竹がスリット状の開口から眺められて、目にも優しい。
バリアフリー最優先でも
機能性とデザインは両立
バリアフリーの設計はデザイン上で思わぬ効用があった。「すべてのフロアをフラットな仕様にすることで広がりを感じ、伸び伸びとした空間を強調できました」と星野さん。また道路拡幅のために長方形だった敷地がいびつな台形となったが、それも庭を囲むL字の住居にすることで解消した。また、ホームエレベーターを設置したので階段は補助的な動線に。「1.5m×2.6mのスペースに納めたらせん階段は、大空間のなかでオブジェのような存在感を発揮しています」と星野さんは分析。室内にある様々な手すりは無垢材を使用し、インテリアになじむように設計。床は車椅子でも操作しやすく、キズもつきにくい複合フローリングを採用し、スタイリッシュなバリアフリー空間がかなった。
10年後も幸せに過ごす
先を見据えた未来の家に
この数十年で家の性能も改善した。「床下冷暖房がさらに進化し、暖房は床下から、室内の空気より重い冷気は上から降り注ぐよう切り替わるなど、室内環境も劇的に進化しました」とKさんも驚く。また、「昨今の地球温暖化に対応するため、外部からのエネルギーに頼らずとも生活できるシステムがより普及するのでは?」とKさんは予測。そこで屋根全面に18.7kWhの太陽光パネルを設置し、エネルギーを自給自足できるZEH対応とし、将来的にはEV(電気自動車)のバッテリーを家庭用蓄電池として利用できる設備をガレージ内に設けた。10年後も幸せに暮らすために、機能面でも未来を見据えた家が完成した。
取材・文/間庭典子
K邸
設計施工 | roomz 星野建築事務所 | 所在地 | 新潟県新潟市 |
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家族構成 | 子世帯+両親 | 敷地面積 | 217.22㎡ |
延床面積 | 279.54㎡ | 構法 | 木造SE構法 |