家族やゲストを迎える緑に包まれたエントランス


閑静な住宅街になじむグレーが基調の外観をさまざまな樹木が包み込む。南西向きで前面道路もかなり広く、パッシブデザインにも好条件な立地。

アプローチを抜け、玄関の扉を開くと広がる木々の緑が目にも鮮やか。吹き抜けの階段越しの緑あふれる公園の借景を玄関ホールから眺められる。

玄関ホール横は大学生の息子さんの部屋。2カ所が引戸となっており、不在のときには開け放ち、ヌケのあるエントランスホールとなる。

階段を背に見通した様子。右手の奥が主寝室になっている。

息子さんの部屋の引戸を開けると、玄関ホール側から自然光がふんだんに入り、日中は照明がまったく必要ないほど明るい。コンパクトな個室をエントランスとつなげることで住空間に広がりをもたらした成功例。

緑が絵画のように映える階段側の開口からは常に柔らかな光が差し込む。ダイニングテーブルは使い勝手のよい大理石のラウンド型をセレクトした。

勾配天井の高窓で近隣の住宅からの視線を避け、フロストガラスの開口から最大限の採光を可能にしたLD。北欧スタイルの家具に合う白を基調とした空間。

1.吹き抜けが緑地側の開口とLDKとの程よい距離感や採光を叶えた。手すりの黒が空間を引き締める。/2.白をベースとしたカラートーンでフローリングの空間には大理石、無垢材、籐などナチュラル素材の家具類が映える。左手はエコスマートファイヤー。

バックヤードとしてキッチン機能をまとめている。仕切り壁は上部に隙間を残し、天井面をリビング側とひと続きにつながるようにしてヌケのある空間にした。

3.浴室へ続く洗面、ランドリーは生活動線を最優先したプランニング。/4.寝室は隣接した住宅が気にならないようフロストガラスの高窓を採用した。間接照明が目に優しい。

5.緑地公園側の2階はフリールームに。2階のLDKと同じ床材を選び、独立しつつも視覚的な統一感を強調している。/6.ドッグランにもなるルーフバルコニーには日差しをよける屋根タープ、オーニングを設置。高い壁で囲い、プライバシーを守った。

幹線道路側から大開口のあるリビングやルーフバルコニーの内側は見えない。造園デザインは「the ROOTS」に依頼。
バックグラウンドが緑地公園という立地を100%生かした大開口
さまざまな植栽に包まれたアプローチを抜け、玄関扉を開くと目に飛び込むのが、鮮やかに輝く一面の植物の緑。正面に見える階段側の北東2面が吹き抜けの大開口となっており、裏手の緑地から景観を取り込み、季節の移り変わりを楽しめる仕掛け。「敷地を見た瞬間、このプランが頭に浮かびました」と設計担当であるタイコーアーキテクトの前田良さんは語る。開放的な玄関ホールと階段は、K邸のアイコン的な自慢のスペースだ。
1階は寝室や浴室などのプライベートなスペース。ここでも限られた空間を最大限に生かす工夫がある。階段脇の大学生の息子さんの部屋、奥の夫妻の寝室は必要に応じて引戸を全開にし、ワンフロアのようにも見せられる。「効率のよい動線を優先し、寝室からランドリーや浴室、そのままW.I.C.へとつながっています。奥には小部屋を設け、楽器を演奏したり、手芸をしたり、趣味の時間を過ごせるようにしました」と奥さま。それらがすべての仕切りを開け放ち、連結させることもできるので、視線も広がり、閉塞感がない。通常は引戸を開け放ち、開放的な空間として楽しんでいる。
2階に上がると伸び伸びとしたダイニングとリビングが広がる。ワンフロアでつながるルーフバルコニーもアウトドアリビングとして家族にとって快適な居場所になっている。オーニングを設置した全天候型のため、雨の日でもドッグランとしても機能する。この奥行きのある住空間には、ナチュラルな木製の家具が映える。「このジャンヌレの椅子はインドに駐在中に手荷物で持ち帰りました」とKさん。海外赴任が多いKさんは現地で好きな家具や雑貨を集め、日本での生活にも取り入れている。広くシンプルなリビング空間に並ぶさまざまなカルチャーの家具や雑貨が調和し、まるでリビング空間全体が白いキャンパスに描いた作品のよう。2階のフロアほぼすべてがLDKだが、階段まわりにはフリールームを配置し、そこからも緑地の借景を楽しめるようにした。
調理に専念できるよう、キッチンはダイニングやリビングからは見えないよう独立し、縦に長いバックヤードとして機能しているのも特徴。調理や家事に集中する裏と、ゲストを招き、リラックスする表が明確に分けられている。共に奥行きのあるヌケが広さを演出しているのだ。キッチンとリビング空間を仕切るテレビ側の壁にはカラーワークスのメタリック仕上げの塗装を採用した。この塗装はシルクのようにしなやかな艶と防カビ性能があり、水拭きが可能。さらに簡単に塗り替えられるなど、メンテナンスしやすいのも特徴で将来リノベーションを考えた際にも汎用性が高い。さらにコンパクトな長細いキッチンスペースにも十分な採光が得られるよう高窓を並べた。
また、ガレージやルーフバルコニーが大開口のLDKと敷地前面の幹線道路との緩衝部分となり、静かな室内環境をもたらしている。特に3m以上の奥行きがある広いルーフバルコニーは外部からの視線を遮断するだけでなく、夏場の日射遮蔽の目的も果たす。このように敷地の力を引き出し、1年を通して快適に過ごせるパッシブデザインを取り入れることで、自然と寄り添う快適な住まいが完成した。
取材・文/間庭典子
K邸
設計施工 | タイコーアーキテクト | 所在地 | 大阪府吹田市 |
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家族構成 | 夫婦+子供1人+犬 | 敷地面積 | 202.35㎡ |
延床面積 | 129.17㎡ | 構法 | 木造SE構法 |