テラスや吹き抜けへと拡張する伸びやかなLDK


1.効率のよい動線を優先し、階段はリビング脇に。存在感がある階段がノイズに感じないのは、蹴込板がない踏板のみのデザインを採用したため。/2.室内と庭との中間領域にはアウトドアダイニングとしてテラスを設けた。軒を広くとり、雨に濡れない設計なのでいつでもゲストとパーティを楽しめる。

エクステリアのプロフェッショナルである住み手のKさんならではのグリーンを効果的に配したラウンジ風リビング。階段奥の中庭の植栽もLDKに奥行きをもたらす名脇役となる。

キッチンとダイニング部分はカントリー調のインテリアデザインに。キッチン回りは、リーズナブルなIKEAのキャビネットを組み合わせてコーディネートした。

同サイズ、同色のタイルをワンフロアでつなげて、リビングからの連続性が感じられる、くつろげるテラスを設計した。庭の植栽は、エクステリアデザイン会社を営むKさんがパートナーとして信頼する「THE GLOVE STORE」に依頼。

リビングはDKや廊下より床面を一段低くし、緩やかにゾーニングしている。ソファやチェアを各所に置き、さまざまな眺めを楽しめるラウンジ風に。

大きなグリーンと洗面台の上に置いた小さな鉢、外部の植栽など、植物をグラデーションすることで奥行き感を強調するテクニックを活用。粗い木目の天板やタイルなど、ナチュラルな素材感を楽しむラスティックスタイルのパウダールーム。

客間としても活用する玄関近くの予備室。単調になりかねない和室は、地窓を生かして自然光を有効に室内に取り入れた。

吹き抜けを取り囲むように配した2階部分。動線上にはワークスペースや洗面などを配し、空間を有効に活用している。作業に集中できる場でありながらも、背後は吹き抜けで開放的。

3.幾何学模様のアイアンの門扉が白を基調としたファサードのアクセントに。/4.玄関右手の鉄製の扉を開くとLDKが広がる。床材はLDKに自然につながるよう、アカシアの無垢フローリングで統一した。

キューブを積み重ねたようなモダンな外観。南西接道面である正面玄関から樋、換気口などの余計な凹凸が外部からは一切見えないように外壁の高さなどを緻密に計算して施工した。オフホワイトでまとめた軽やかな外観を考慮し、オーストラリア原産のドライ&ハードなイメージの植栽でコーディネート。

車やバイクのメンテナンスなど、趣味の時間も過ごせるガレージにした。外部収納を兼ねた秘密基地のようなスペース。
リビングから広がるさまざまな居場所が日常を豊かにする
吹き抜けの天井高が約5mという圧倒的な大空間が広がるK邸のリビングは、まるでホテルのラウンジやカフェのようにスタイリッシュだ。ソファやチェアをあえてランダムに配置して、違うアングルでの眺めを楽しめるようにしている。木造でも梁が見えないダイナミックな吹き抜けは、最低限の構造柱でも耐震性が高い木造SE構法だからこそ実現できた大胆なプラン。その結果、ガレージもまた柱や壁に遮られることなく、約6mの間口のある大空間を得られた。玄関ホールの床から続くアカシアの無垢材のナチュラルさと、シャープな黒の建具、アイアン手すり、サッシなどを絶妙に調和させ、独特の雰囲気に仕上がっている。
「1階リビング南北両方に大開口の掃出し窓を設け、北側はウッドデッキの中庭に、南側はアウトドアダイニングのようなテラスとしてリビング空間を拡張しています」と幸和ハウジングの深田真也さん。フロアダウンをさせたリビングとタイルデッキとリンクさせ、ワンフロアにした。「室内のリビングタイルと中間領域であるテラスのタイルを共通にすることで、視覚的にも外と内のつながりをもたせています」と深田さんは語る。この地は気候が温暖で年間を通じて外で過ごせる日が多く、アウトドアダイニングは重宝しているそう。
大空間だからこそ、さりげないゾーニングを心掛けた。「1階フロアでリビングだけ1段下げ、床材もタイルに替えています。段差により視点が変わり、床の色や素材を変化させることで、仕切りがなくてもキッチンダイニングや廊下と違うエリアであることは視覚的にわかるのです」と深田さん。このような配慮により、大空間が間延びすることなく、調和のとれた居心地のよい場になっている。
2階には吹き抜けと接した動線上にワークスペースや洗面を配置し、空間を有効に活用した。同じ室内で過ごしていてもフロアが違うことで、デスクに向かって作業する側とリビングでくつろぐ側は、双方の気配を感じつつも存在が気にならない。そのためのレイアウトを熟考し、夫婦共に過ごしつつも、個の時間を楽しめる住まいにした。
「Kさんのコンセプトは固まっており、工務店として提案するというよりは、そのイメージを具体化するために意見を出し合い、一緒につくり上げたという印象です」と深田さんは当時を振り返る。Kさんはエクステリアデザインの会社を経営する外構のスペシャリストであり、K邸の外構や造園も「Exterior & Garden K.T.U」にて設計施工。デザイン性に優れた住居のエクステリアを手掛けてきたKさんならではの
センスが光る。キッチン回りも自ら設計し、コストパフォーマンスにも優れたIKEAのキャビネットを採用するなど、自身のライフスタイルに合わせてコーディネートした。
外構は全方向から屋根や樋が見えないようにするため、中庭をつくり、そこに向かって屋根の勾配や樋を落とし、ボックスを組み合わせたようなファサードに仕上げている。まるで美術館やギャラリーのような、隙のないモダンな外観は緻密な計算による賜物である。設計者と工務店そして住み手が妥協することなく、プロ同士が技を極め、他にはない洗練と快適を両立させた住まいが完成した。
取材・文/間庭典子
K邸
設計施工 | 幸和ハウジング | 所在地 | 静岡県焼津市 |
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家族構成 | 夫婦 | 敷地面積 | 411.07㎡ |
延床面積 | 188.29㎡ | 構法 | 木造SE構法 |