受け継がれてきた芸術や文化に磨かれた家


玄関のホールや廊下にはお祖父さまである丸山正三氏の作品を飾り、ギャラリーとして活用。季節やテーマごとに編集し、日常で作品を鑑賞している。

LDKの中心にはグランドピアノが。勾配天井が反響効果をもたらし、音質を高めてくれる。2階は美術書や文学全書などの蔵書を収めたライブラリー。

以前の庭をそのまま生かし、昭和初期から育てているバラや月桂樹に加えてハーブやブドウの木なども増やし、収穫が楽しくなる庭園にする予定。縁側で快適に過ごせるように、庇を長めにとった。

バウハウスに影響を受けたテクタのダイニングテーブルには、あえて不揃いの椅子をコーディネート。フランク・ロイド・ライトのフロアスタンドに、伊東豊雄の「マユハナ」のペンダントランプを合わせるなど、A邸ならではのセンス。

LDKの吹き抜けに面したライブラリーコーナー。譲り受けた画集や家族の愛読書を収める書棚を両サイドに造作した。庭を感じながら読書ができる。

通常のガスコンロとともに業務用の火力を誇るガゲナウのバーナーも設置。一度に4品調理でき、作業効率がぐんと上がった。よく使う鍋や調理器具の収納には扉をつけず、すぐ取り出せるように。引き出しも食器の数や大きさに合わせて緻密に計算した。

1.キッチンカウンターには琉球石灰岩を採用。ナラ材の風合いと相性がよく、軽やかさと落ち着きのある自然素材。/2.大開口から庭を眺めながらお茶を楽しむ。春にはバラ、夏にはブドウ、秋には紅葉などが庭を彩り、四季を感じられる。

床の間のケヤキ板は改築前の邸宅で使われていた建材を再利用。ブルーグレーの壁には丸山正三氏の油絵が飾られ、和の空間に調和しながらも彩りを添えている。雪見障子からのぞく庭の緑も目に鮮やか。縁側が和室とLDKとをつないでいる。

3.味わい深い大きな扉の型板ガラスも、診療所を兼ねていた昔の邸宅で使われていた建材。/4.飾り金具が華やかな仙台箪笥の上には、フランク・ロイド・ライトの照明と鳥のオブジェを置いて。和室の畳と相性のよい、通称あぐら椅子と呼ばれる天童木工の「スポークチェア」を合わせた。
日常の中でアートや音楽を愛するライフスタイル
日々、芸術にふれられる文化的な環境作り
上越新幹線の長岡駅から近いA邸は、歴史ある城下町にある邸宅。家を建て替えるにあたってのコンセプトは、「文化を受け継ぎ、暮らしの質を上げる家」だった。
玄関はAさんの祖父である丸山正三氏の絵画が並ぶギャラリースペースとして活用した。丸山氏は医師でありながら筆をとり、長岡造形大学内に展示館もある芸術家。所蔵している作品を家の各所に展示し、生活の中で楽しんでいる。
A邸の1階にあるLDKの中心的存在はグランドピアノだ。お子さんがピアノ室という個室ではなく、生活空間の中でレッスンに集中できるようにとプランを検討した。2階から軒下まで続く大きな勾配の屋根は、音楽ホールのような音響効果をもたらし、祖父から譲り受けたタンノイのスピ―カーからは重厚な低音が響く構造となっている。
また、壁で仕切られることなく、LDKとさまざまなコーナーがリンクしている。階段上のライブラリーには、文学書や絵本、画集など家族全員の蔵書が並び、庭の緑を眺めながらのんびり読書ができる。近隣からの視線を遮るルーバーの格子と、天童木工の「スポークチェア」もやわらかな影を描き出す。
家事効率を向上させるキッチンと生活動線
家事の効率をあげる機能にもこだわった。奥さまの要望は業務用コンロに匹敵する火力。通常のコンロに加え、ガゲナウの最高出力6キロワット、3連のハイカロリーバーナーを採用した。「いつもの炒め物がプロの味になるんですよ」と奥さまは微笑む。キッチン周りの収納は、設計を担当した星野建築事務所の松崎友和さんに相談しながら細かく詰めた。「どこにどの器を収めるか、よく使う器具はすぐ取り出せるようにオープン棚にするなど、実際の作業を考えながら設計していただきました」とのこと。
最後まで決めかねたのはキッチンを囲む壁の仕上げだった。松崎さんは振り返ってこう語る。「会話の中で奥さまの趣味がダイビングだと知り、沖縄の珊瑚礁や貝殻が堆積してできた琉球石灰岩を思いつきました」。保湿性、通気性にも優れ、天然素材ならではの素朴さがクラシカルでぬくもりのある空間によくなじんでいる。
家事と生活の動線を連結させたことも、暮らしが快適になった要因。キッチンからパントリー、ランドリー、浴室が一続きでつながる。また将来、介護が必要となった場合、車椅子で移動できるようにバリアフリーな設計を心がけた。
家とともに生きてきた建材を現代に合う形でリメイク
前の家で使われていた建材も随所に生かしている。玄関とLDKを結ぶ扉は、建て替え前の邸宅兼診療所の玄関で使われていた型板ガラスをリメイクした。また、和室の床の間の大きなケヤキ板も前の邸宅のもの。これらは建て替え前に取り出し、自由な発想で再利用してもらうように星野建築事務所にお願いしたのだそう。
LDKのどこからも眺められる庭も多くのものを受け継いだ。代々家族を見守ってきた石像や戦後すぐに植えられた月桂樹やバラなどの植栽だ。日本庭園だった池は埋め、より自然に近い庭にすべくハーブを植えるなど、週末は園芸にいそしむ。
「 庭とともに家がある。庭が完成してこそ、家の完成だと思っています」とAさん。人々の思いが家を育て、次の世代へと引き継がれていく。
取材・文/間庭典子
A邸
設計施工 | 星野建築事務所 | 所在地 | 新潟県長岡市 |
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家族構成 | 夫婦+子供2人 | 延床面積 | 221.84㎡ |
構法 | 木造SE構法 |