研ぎ澄まされたミニマルで美しい空間


硬質な光沢の大判タイルが10m近く続く玄関アプローチ。日中は静謐な空間に澄んだ光が差し込み、夕刻は上下からの間接照明がドラマチックだそう。

モノトーンの世界に、アートピースのように美しい階段が3階まで続く。メッシュ素材も組み合わされ、レースのように透ける。地窓からの光も美しい。

3階のLDKはエントランスと同様、大理石のような質感の大判タイルを採用し、凜とした空間に仕上げた。ダイニングテーブルはアルフレックスのもの。

1.ガラスやステンレスのクールな素材感が、上質なカーフレザーなどの白と黒のインテリアに調和する。可動式のワゴンは必要に応じて配置できて便利。/2.キッチンはポーゲンポールに依頼し、冷蔵庫はリープヘルのものを選択。ドイツブランドらしく、機能美にあふれたラグジュアリーなキッチンが完成した。通路はゆったりとした設計にし、子供たちと一緒にお菓子作りなども楽しんでいる。

家の中にいながら別世界にいるような気持ちになれる和室は、お茶や謡の稽古場に。プライベート感もあり、ゲストルームとして活用することもできる。

和室の内部。黒格子の建具、黒枠の地窓がシンプルモダンなほかの空間と調和する。

壁一 面を書棚にし、グレーのカーペットを採用した重厚感のある書斎。歌舞伎鑑賞が趣味というKさん一家だけあり、古典芸能関係の蔵書も多い。

防音設備を施した1階の音楽室にはピアノ、ドラム、マリンバ、バイオリンなどさまざまな楽器が。奥には勝手口があり、外からそのまま音楽室に入れる間取りに。
白と黒のみの世界がもたらす優美で快適な住まい
シンプルなラインが美しい五感が喜ぶ上質な素材
無駄な要素を排除したゼロ空間。それがK邸のコンセプトだ。装飾のない空間、色は白と黒の2色に抑えられ、余分な線がなく描かれたパース。現代アートのギャラリーのようなシャープな外観など、そのすべてが無駄なく美しい。
まず、入り口の2重扉を開くと驚かされる。靴を脱ぐ場所まで約10mのアプローチがあるのだ。「帰宅して外の世界から自宅へ戻る。その気持ちの切り替えをこのスペースでしていただければと思いました」と設計を担当したテラジマアーキテクツの深澤彰司さん。地窓から自然光が入り、硬質な石の素材を柔らかく包む。夜はライティングされ、さらにドラマチックな演出になるという。ベンチにもなる台を設け、バカラのコレクションをさりげなく飾っている。
その凜とした佇まいは2階、3階まで続く。2階は書斎や寝室、子供室がある居住空間。3階はワンフロアをLDKとした。「リビングとダイニングのテーブルは、実家で長く使い続けてきたアルフレックスのものです。このトーンに合わせて造作家具をデザインしていただきました」と奥さま。
カーフレザーを使用し、テレビ周りの家具などを造作。シンプルながら迫力と華やかさのあるリビングとなった。緩やかなL字を描く長手側はキッチンとダイニング。キッチンはドイツ製のポーゲンポールを選んだ。
ハレの日も普段も快適な才色兼備を極めた空間
テラジマアーキテクツを知ったきっかけは、奥さまが通っているおもてなし料理のサロン。『MLウェルカム VOL.2』でも紹介したM邸だ。「先生の自宅でもあるそのキッチンスタジオは居心地がよく、ショールームのようにスタイリッシュなのに、機能的で調理しやすいんです」と奥さま。家を建てるならシンプルな美しい空間でありつつ、性能面でも妥協したくなかった。日常も非日常も快適に過ごせる空間が理想だ。
キッチンは先生のお宅をお手本に。天板は光沢があり華やかで、かつ手入れがしやすい人工大理石のサイルストーンをセレクト。収納やパントリーにゆとりを持たせた結果、パントリーでも作業ができるようになり、キッチンは見せるステージとしての役割も生まれた。ダイニングの壁を生かしてカウンターテーブルを付けて、お子さんたちが勉強に集中できるコーナーも設けている。
木造の可能性に挑戦し安全で快適な木の家に
1階には音楽室、応接室を兼ねた和室など、独創的なスペースが広がる。和室は謡うたいを趣味とするご主人が稽古の場に。壁には贔ひいき屓にする歌舞伎役者の隈取などが飾られている。玄関のアプローチ同様、和室の入り口までは伝い石が敷かれた小路が作られ、屋内にありながら離れのような趣がまた、風情を感じさせる。
3階LDKの大空間の上にはアウトドアが楽しめる屋上バルコニーがあり、家族で集うことも。今までの木造住宅ではありえなかった規模での耐震等級3をSE構法で実現した。「木造だからといって木のぬくもりは強調したくなかったんです。鉄筋造のような硬質でシャープな印象でありながら、安心できる自然素材に囲まれて暮らすことがかないました」と奥さま。外壁には天然石を使用するなど、屋内外と共に上質なマテリアルを追求している。「大人が楽しめる上質な家」であり、「子供にも安全な素材の家」となった。
取材・文/間庭典子
K邸
設計施工 | テラジマアーキテクツ | 所在地 | 東京都渋谷区 |
---|---|---|---|
家族構成 | 夫婦+子供2人 | 延床面積 | 318.56㎡ |
構法 | 木造SE構法 |