立地を生かした小川と緑を望むLDK


1階からルーフトップに続くフロアを貫くらせん階段。優美な曲線を描く真鍮の手すりは、細工が難しいため金属加工を得意としている友人に依頼した。

小川沿いの小路から見上げた三牧邸。外壁はメンテナンスが容易な信州カラマツ材、漆喰、鉄平石でまとめた。川沿いの遊歩道に面した側を坪庭にした。

ルーフトップはビオトープとして、野菜やハーブを栽培。遊歩道を歩く人に配慮し川沿いの庭は在来の植物だけだが、屋上は料理に使える外来種も植えた。階段室の屋根に太陽熱集熱パネルを設置。

LDKの床材には、経年変化が楽しみな北海道産のシラカバを採用。ナラの丸太から切り出したというダイニングテーブルとの相乗効果で温かみのある空間。調理にも活用しているストーブは存在感があり、一年を通して程よい空間のアクセントになっている。

都心の住宅密集地とは思えない20帖ほどのルーフトップには池や野菜が収穫できるビオトープも造園した。

キッチンは名古屋モザイク工業のタイルで重厚に。水栓はすべて世界各国の高級ホテルや邸宅で採用されているドイツ製のグローエをセレクトした。

アイランドキッチンは造作。引き出しのハンドルなども真鍮素材にこだわった。天気のいい日にはバルコニーで、のんびり小川を眺めて過ごすことも。

1.扉や壁など、廊下から続く寝室への仕切りをなくし、3階をすべて一つの空間に収めた。/2.構造上で生まれたくぼみをそのまま残してスパイス棚に。階段スペースからの壁一面の書棚など、空間を無駄なく使い収納を確保。

浴槽からは、らせん階段が見えるほど見通しがいい。トイレ、シャワーは階段からは全く見えない。

各階が同じ環境を保つ全館空調を採用。寝室には2階のLDKをつなぐ通気口が。寝室の床材は経年変化が魅力の無垢のナラ材。壁は一面ネイビーにして落ち着きを出した。

壁面の2色使いが印象的なトイレの洗面スペース。
81.24㎡とは思えない、伸びやかで自然に寄り添う邸宅
緑と水に囲まれた
ロケーションに映えるL字形の家
小さな水路沿いに立つ三牧邸は約81㎡の敷地に建てられたコンパクトな邸宅。ターミナル駅から3駅離れた都市部の住宅密集地にある。「最初はお店も多く、街歩きが楽しいエリアも考えたのですが、3駅離れただけで静かな環境になるこの街で正解でした」と語るのはオーガニック・スタジオの社長であり、この自邸を設計した三牧省吾さん。この新居に越してからは家で過ごす時間の豊かさを実感したという。
川沿いに開いた2階のLDKを1階の北側の納戸と東側のエントランスの棟で支えるというプラン。中央は駐車スペースとし、薪のストック棚や川沿いの遊歩道に続く坪庭なども敷地内に収めた。3階に水回りと寝室、ルーフトップに本格的な菜園を配することができたのも、木造でありながら強度を保てるSE構法ならでは。「屋上にはメダカが泳ぐ池もつくり、菜園全体に土も敷きつめています。水や土の重みにも耐え、耐震性が確保できるので、限られた敷地を有効に活用できました」と三牧さん。三牧さんが自由に描いた設計図を構造設計士がチェックをすることで、その強度が保証された。木の個体差に左右されず、強度が統一な集成材を使用しているからこそ、一棟一棟の構造計算が可能となり、数字に裏付けられた耐震構造となるのだ。必要以上の柱や壁で支えることがないため、狭小住宅でも伸び伸びとした大空間が可能になる。
ルーフトップへの階段室も含め、4層となるフロアを貫くらせん階段はオブジェとしても美しい。「真鍮の手すりは鉄骨屋の方の手に負えず、特殊金属加工ができる友人にお願いしました。真鍮の素材感が好きなので、建具の金具など細部の素材にも採用しています。設計士としてのこの家の作品名は、『心鍮庵』ですね」と三牧さんは笑う。
全フロアで一つの空間となる
扉も仕切りもない家を実現
「この家のもう一つの特徴は、玄関とゲストも使う1階のトイレ以外には扉が全くないことです」と言う三牧さん。2階はLDK、3階は浴室と夫婦の寝室があるが、各フロアと各部屋の仕切りが存在しないという実験的な住まいなのだ。「トイレにもドアがなく、壁も仕切りもないバスルームにしました」と三牧さん。「住んでみるとトイレもシャワーも死角にあるので、視線も気にならず、今まで前例のなかった新しいシャワーやバスタブエリアが実現したことに満足しています」と奥さま。奥さまは水栓メーカーのグローエに勤務しており、三牧邸のキッチンや水回りのコーディネートも担当した。
自分のスタイルを追求し
得たのはエコで自由な暮らし
「夕暮れ時にバルコニーに出て飲んでいると、風を感じて心地がいいですよ。この小さなちゃぶ台も、ここに合うかな、と思って拾ってきたんです」と三牧さん。常識にとらわれず、自分たちにとって優先すべきことを考えた結果、得たのはエコで自由な暮らしだった。屋上からハーブを摘み、太陽熱集熱パネルの熱を活用し暖房、生活から発生するごみはEMコンポストとして畑へ。また、坪庭を道行く人とも共有し、地域にも貢献する。自分たちが心地よく、快適に暮らし続けられる、サステナブルな家を目指してこれからも進化したいと三牧さんは語る。真の豊かさとは何か、それを問いかけるかのように未来へと進む──。それは三牧邸のテーマにも共通している。
取材・文/間庭典子
Y邸
設計施工 | オーガニック・スタジオ | 所在地 | 埼玉県さいたま市 |
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家族構成 | 夫婦 | 敷地面積 | 81.24㎡ |
延床面積 | 136.89㎡ | 構法 | 木造SE構法 |