非日常な週末へと誘う崖の上に浮かんだヴィラ


絶壁に浮遊するような建物のエントランス。玄関は細長いLDKとつながり、扉を開けると窓の外に緑いっぱいの借景が。

下から見上げると構造部分が現れる。木は極力伐採せず、自然のまま生かした。窓が隠れるように浴室の位置も調整。

1.LDKや玄関などの床は温かみのある栃木産の大谷石を敷きつめた。独特の風合いがあり、フランク・ロイド・ライトも「帝国ホテル旧本館(ライト館)」などで好んで使用したもの。/2.LDKからワンフロアで続くフローティングバルコニー。絶景を眺めつつ食事をするなど、緑に囲まれて過ごす時間も多い。星降る夜は天体観測を楽しむ。

LDKの壁一面をキッチンカウンターにし、限られた空間を有効活用。ピンクベージュの壁をアクセントに、さまざまな色やテイストが見事に調和する。

書棚でリビング空間と緩やかに区切られたダイニング。近隣の別荘に集まる友人を招くことも多いので、テーブルは6人掛けの円卓を選んだ。照明は伊東豊雄デザインの「マユハナ」を提げて。

3.ジョージ・ナカシマの「ラウンジアーム」や天童木工の「スポークチェア」などの名作家具に、骨董の火鉢が調和する。/4.和室の床の間にも大谷石を部分的に取り入れた。部屋のさまざまな部分に特徴的な素材、壁紙を使うことでシンプルな中にも洗練が生まれている。/5.バルコニーとひと続きにすることで、それぞれの部屋が外部まで広がるような印象に。

ゲストルームとしても使用している琉球畳の和室には、イサム・ノグチの和紙製のランプや李朝の飾り棚をコーディネート。和紙のような風合いの壁紙に、天井部分だけ光沢が美しいシルバーを選び、質感の違いを楽しんでいる。

主寝室も和室やLDKと同様、開口部に面し、バルコニーを通じて外部とつながっている。

6.温泉が湧き出ている石造りの浴槽。2面開口だが、絶壁に立ち、目前に大きな木が2本目隠しのように立ち並んでいるため、プライバシーは守られる。/7.公道に面した玄関側以外には多数の開口部を設けた。浴室横にある洗面所にも大きな四角い窓を設け、鮮やかな木々を絵画のように眺められる。天板はキッチンなどと揃え、統一感を出した。
非日常を過ごすヴィラへと続く天空の架け橋
空中に家が浮かんで見える実験的なプランに挑戦
崖の上に浮かぶように立つO邸はインテリアデザイナー、Oさんが「Villa i.1030」と名付けた別荘。長く暮らしてきたアメリカから日本に拠点を移したころに建設した。
「NYではごく普通の人でも、ロングアイランドなどの郊外にサマーハウスを持ち、週末をそこで過ごします。そんな自由な時間を過ごす家がイメージです」とOさん。クラシックカーで峠をドライブする、釣りに行く、窓の外の風景を見ながらぼんやりとまどろむ。ときには東京の家族と離れて、伊豆の自然に溶け込む山荘で、一人ぜいたくな休日を過ごす。海外で生活しているお子さんが、一時帰国中に滞在することもあるという。
SE構法ならではの宙に浮遊するようなプランは革新的だった。「SE構法を開発した播繁(ばんしげる)さんと面識があり、とにかく自由度が高い構法だと教えてもらいました」とOさんは語る。熱海や伊東の別荘建築を多く手がけていた梅原建設にとっても、当時SE構法の施工は初めて。「他の工務店と競合した結果、弊社を選んでいただき、O邸は弊社のSE構法による第1棟目となりました」と梅原建設の梅原智之専務。「実験的な試みにもひるまず、興味を持って取り組む梅原建設の姿勢に共感しました」とOさんは当時を振り返る。
リスクと戦いながらかなえた絶景の中に佇むヴィラ
傾斜のある立地の特性を生かし、見事な眺望の大開口を実現した。宙に浮かぶような家へと続く架け橋を進み、扉を開けるとLDKが広がる。キッチンはシンプルなカウンターバーにし、その分、リビングやダイニングにスペースをとった。また、樹木は極力切らず、その配置を利用。南側の2本の木が浴室の目隠しに。バルコニーから手が届く位置に枝があり、夏には心地よく木漏れ日が入る。
1階は浴室と書斎のみ。「週末だけの家なので部屋数を絞り、今後、必要に応じて増築していく予定です」とOさん。定住することも視野に入れられる自由度の高さも、SE構法のメリットだ。また、床下はあえて構造部分をそのままむき出しにして、視覚的な演出も狙った。「実はここまで大胆に見せることは奨励していません。前例がないので保証できず、こまめなメンテナンスを条件にお受けしました」と梅原さん。しかし定期的な調査でもダメージはあまり見られず、塗装による補修程度ですんでいるという。「キツツキがいたずらして穴を開ける被害にはあいましたが」とOさんが笑うほど、家が環境に溶け込んでいる。
心引かれるもので構成したミックススタイルの空間
インテリアデザインはもちろんOさんが監修。外壁に使われることの多い、栃木県産の大谷石などを大胆に床材として用いた。それ以外にも杉板、珪藻土、伊豆石など天然の素材を選び、極力、既製品に頼らない仕様とした。「この家には心地よいと感じる素材やデザインを集めただけ。でも、長い海外生活の影響で和を感じる要素を求めていたのかもしれませんね」 と笑いつつ、分析する。天童木工やジョージ・ナカシマの木の椅子、イサ
ム・ノグチの和紙の照明、そして李朝の棚や骨董の火鉢などが見事に調和し、素材のぬくもりが感じられる落ち着いた空間に仕上げられた。
実は、このO邸「Villa i.1030」が建てられたのは10年ほど前。インテリアのプロフェッショナルと、立地の生かし方を知る工務店との共同作品は、10年経った今も斬新な魅力を放っている。
取材・文/間庭典子
O邸
総合施工 | 梅原建設 | 所在地 | 静岡県伊東市 |
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家族構成 | 夫婦+子供2人(別荘として主に施主夫妻が使用) | 延床面積 | 106.81㎡ |
構法 | 木造SE構法 |