庭園が主役の旅館ライクな和モダンの家


庭園を楽しむために造られたLDK。伝統的な日本家屋の様式を取り入れ、縁側のように長いウッドデッキで外部とつなげた。奥は客室を兼ねた和室に。

LDKの大空間に隣接し、トイレや浴室などへの動線も考えられた和室は、ゲストルームとしても活用。住み手の寝室はLDKを挟んだ逆側にあるため、お互いのプライバシーも守られる。地窓は浴室との間にある坪庭とリンクしている。玄関から直で和室に入れるため、応接室としても使っている。

建具の装飾部分は、この土地に以前立っていた日本家屋の欄間を縦にして再利用した。

和室からLDKを眺めた風景。普段は障子が開放され、LDKの一部に。ダイナミックな樹木を生かしたダイニングテーブルを置き、テレビボードはダークグレーにするなど、空間に重厚さを加えることで、和のモチーフが調和するLDKとなった。エアコンなどは格子でカバーしている。

LIXILのシステムキッチン「リシェル」をアイランドスタイルで配置し、壁面収納とキッチン本体との距離に余裕を持たせた。幅120㎝ある広々とした作業スペースで料理をしながら、ふと見上げると庭園が見渡せるという贅沢なプラン。ダウンライトと間接照明で天井はシンプルに。奥はトレーニングやヨガを楽しむスタジオとしても使っている予備室。

庭に面した寝室もまた大きな開口がとられ、開放的な空間となっている。開口部は格子で囲うことで、光は通すが、外の視線は遮断できるように工夫した。LDKからつながる縁側のデッキには、椅子を置いてくつろぎの場に。壁を深みのあるブラウンにし、ブルーグレーのカーテンやベージュのカーペットでシックな雰囲気を演出。

壁面の一部を渋みのあるゴールドにしたトイレ。高窓から光が当たると華やかさを増す。

日本家屋ならではの瓦屋根が印象的で、のびやかな外観。古くからの街並みが残る長野の地に調和している。庭園に面した両翼の格子は意匠としても美しく、外部から室内の気配が分からないという利点も。リビングの深い庇は、夏は強い日差しを遮り、冬は光が部屋の奥まで届くように計算されたパッシブデザイン。

坪庭により開放感が生まれた浴室。寝室同様、格子で視線を遮っている。坪庭の向かいに見えているのは、LDKに隣接する和室の地窓。
モダンで快適な空間に見え隠れする和の意匠
庭を眺めて毎日を過ごす
贅沢な平屋での暮らし
「旅館にいるかのようなくつろいだ気分になれる、非日常でラグジュアリーな平屋が理想でした」と奥さま。長野市のT邸が立つこの敷地には、Tさんが購入した際、古い日本家屋と日本庭園が残っていたという。歴史を重ねたその風情に魅了され、庭石や灯籠は位置もそのまま生かすことにし、家のどこにいても庭を望めるプランにした。
外観は直線的でシャープなデザイン。平屋根のキューブ型を採用するなど、もっとモダンにすることも可能だったが、Tさんの意向で歴史ある街並みになじむ伝統的な瓦屋根が選ばれた。中央に庭園を望むLDKの大開口、寝室側は視線を遮る格子、玄関側は格子と同色の木材を使うことで左右対称に。また、縁側の役割を果たすウッドデッキを備え付け、半屋外でも快適に過ごせるようにするなど、庭園が主役となる家造りに挑んだ。
玄関を開けると端正な木工細工が目に入る。これは取り壊す前の古い家屋から、Nさんが選び取った欄間。「家のどこかで生かしたいと希望されたので、縦に配置して、和室へとつながる引き戸に仕立てました」と設計を担当したM-STYLEHOUSEの酒井良子さん。扉を閉じると欄間は壁の一部のようになり、夜はほんのりと和室からの明かりがもれて美しい。
生活感を出さないための
隠す収納のアイデア
LDKの内装や家具は極力シンプルにまとめた。「キッチンは通常より大きめの幅120㎝のアイランド型にし、動線も広めにとるなど、余裕のあるスペースにしました。奥さまの希望により、背面はすべて収納に。食器を収めつつ、食材用のパントリーとしても使えるようにしています」と酒井さん。収納の引き戸を全開にすれば、物が出し入れしやすく、調理の際も無駄なく動くことができる。「ダイニングテーブルは気に入ったものがなかったので、既製品に塗装して、リメイクをしました」とTさん。シックな和モダンの空間に、程よい重厚さが加わった。
柱の陰となり、リビングからは見えない部分に棚を設けたり、扉を閉めれば勝手口とは気づかない仕掛けなど、ゲストの視界に生活感のあるものを入れないアイデアも各所にちりばめた。寝室の開口の外には全面に格子を採用し、外部からは目隠しになり、室内からは格子越しに庭園が望めるように。日本の伝統家屋の知恵を生かした。
訪問客が使う機会の多いトイレは華やかに。大胆なゴールドの壁にし、備前焼の洗面台をあつらえるなど、旅館やレストランのようなもてなすための空間にしている。また、玄関扉以外はすべて引き戸にすることで、贅沢な平屋をさらに広く感じさせ、無駄なく空間を使えるようにした。
浴室前に坪庭を設けたことで
露天感覚の開放感が誕生
T邸にはもうひとつ庭がある。「露天風呂のような開放的な浴室も要望のひとつでした。Tさんからは庭園に面して浴室を作る案も挙げられましたが、近隣との距離を考えると、坪庭を造り、視線が気にならない配置にするのが現実的だと思いました」と酒井さん。その結果、自然光が降り注ぐ、温泉旅館のような浴室がかなえられた。
鉄筋の建造物の設計など建築業に携わるTさん。だからこそ自宅には旅館のくつろぎを求め、木の家を選んだのだそう。和の意匠ならではの安らぎと快適な機能を備えたラグジュアリーな平屋は、日々の生活を豊かにしてくれる。
取材・文/間庭典子
T邸
設計施工 | M-STYLE HOUSE | 所在地 | 長野県長野市 |
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家族構成 | 夫婦 | 敷地面積 | 388.62㎡ |
延床面積 | 111.51㎡ | 構法 | 木造SE構法 |