ラグジュアリーな素材を織り交ぜたくつろぎの大空間


勾配屋根と天窓がドラマチックな2階のLDK。鏡を利用し、広く見えるよう視覚効果も狙った。Sさんの書斎があるロフトからもLDKが見下ろせる。

風合いのあるブラックウォールナット材を天井に使って、キッチンやダイニングのアクセントに。ステンレスのキッチンもマットな素材感が生きている。

裏千家の教室を開いている奥さまの茶室。支柱や天井の網代は木場まで出向いて吟味した。水屋は室内に設けられなかったため、廊下の向かいに作った。

1.玄関扉を開くと飛び込んでくるピクチャーウインドー。親世帯と共有する庭の絶景は、訪れる人に最高のおもてなしになっている。ちょうど目の高さに芝生が広がって見えるよう配置。吹き抜けが地下の子供室にもつながり、自然光を届けている。/2.地下階への階段はヨーロッパの古城のようなアールを生かした砂壁仕上げに。上り下りがしやすいよう床にカーペットを敷き、手すりも付けた。

3.庭に向かう大開口があるため、公道に面した西側は壁で囲ってプライバシーを確保。ビルトインガレージの中央がポーチとなる、ユニークなプランとなった。駐輪場の奥は茶道教室も主宰する奥さまの茶室で、玄関から直接入れる設計に。/4.古くは法隆寺や万里の長城など、歴史的建造物でも多用された版築壁。土や石、石灰などを建材に強く突き固める方法で、堅固な土壁を構築できる。工期やコストの関係で敬遠されてきたが、近年、この独特な風合いを持つ版築壁が見直されつつある。S邸では外壁を版築風に仕上げた。

LDKのアクセントになっている味わい深い壁と鏡。鏡には隣家の瓦屋根も借景として写り込み、より重厚な雰囲気に。
親世帯と庭を共有する、木々に抱かれた安らぎの住宅
重厚さと華やかさを併せ持つ
ラグジュアリーな素材で遊ぶ
東京都目黒区にあるご実家の敷地の一画に建てられたS邸。樹齢を重ねた大木の豊かな緑に包まれた邸宅には、安らかな時間が流れている。Sさんは大手不動産総合会社で超高層ビルの開発を統括する建築のプロフェッショナルだが、自邸には木造を選んだ。「『コンクリートの床での生活は疲れるよ』とRC造の家に暮らす知人に言われたことがあります。確かに石の家は靴のまま過ごす海外では問題ないかもしれませんが、裸足で生活する日本人には負担が大きい。2階のLDKはセラミックのタイル張りですが、下地の木材は柔らかくたわむので疲れませんね」とSさん。
LDKにも木の持つ質感そのものを生かすアイデアを盛り込んでいる。例えば、キッチンの上に載せた古材の一枚板。ステンレスと大理石の硬質なキッチンの雰囲気を和らげ、調理中の手元をさりげなく隠す効果もある。Sさんは整然としすぎる空間よりも、自然の中にある有機的なものと共にある暮らしを選んだ。「キッチン周りで使用した木も、木目の整った高価なものではなく、節目が大きく不ぞろいなものをあえて選びました」とSさんは語る。時には重厚な木材を選び抜くため自ら材木店に足を運んだり、版築風の外壁を試みるなど、素材感が生きた家に仕上げた。
地下階で延床面積を拡大し
ゆとりのある居住空間を確保
1階には車2台が収まるビルトインガレージ、お茶の教室となる玄関に近い茶室と水屋が必須条件だった。「都内の低層住居専用地域では法律上、地上2階建てが限界で、なかなか床面積を確保することができません。そのため地下を居住スペースにするプランを提案しました」と設計施工を手掛けたクウェストの可児義貴社長は語る。
「地下室で寝るなんて、と最初は躊躇しましたが、実際に過ごしたら雑音が全くなく、朝まで熟睡し過ぎて……」とSさん。地下の子供室には天窓を設け、玄関ホールを通じて庭からの光を取り込んでいる。部屋ごとに温度調節が可能な全館空調システムの導入により、地下階も快適な環境を維持できるようにした。
「オフィスビルでは効率良く床面積がとれる正方形が理想とされています。ちょうど実家の庭に正方形の敷地がとれたので、この家も正方形にしました」とSさん。正方形の建物は耐震性にも優れるといわれている。横揺れの場合、建物の短辺より長辺の方が大きく揺れるからだ。効率と安全の面で正方形の建物は住宅にも適している。
豊かな建築知識とセンスで
SE構法の可能性を引き出す
高層ビルに関する知識が豊富なSさんだが、2階建て以下の木造住宅に構造計算が義務付けられていないことはこの家造りで知った。「構造計算はすべての建造物に必要だと思っていたので驚きました」とSさんは当時を振り返る。そして木造でも耐震性に優れたSE構法での家造りに定評があるクウェストにたどり着いた。1階の大きなビルトインガレージや、2階のせり出すようなLDKのプランもSE構法ならでは。
「YESしか言わない会社も多い中、可児さんはベストと信じるものを貫く意志がありました」とSさん。その手応えを面白いと感じたSさんは、時には可児さんと激しく意見を交わし、天然の石材や木目が特徴的な木材などの素材をとことん追求。そうして出来上がった家は、住み手と造り手の作品ともいえる納得の仕上がりとなった。
取材・文/間庭典子
S邸
設計施工 | クウェスト | 所在地 | 東京都目黒区 |
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家族構成 | 夫婦+子供2人+犬 | 敷地面積 | 185.54㎡ |
延床面積 | 216.97㎡ | 構法 | 木造SE構法+RC造 |