歴史を紡ぐ蔵に守られ、ラグジュアリーを極めた邸宅


リバーサイドに開いた吹き抜けのリビング。キッチンの世界観に合わせて、ソファやキッチンのスツール、ダイニングのチェアもキルティングモチーフで統一している。

2階の廊下から1階リビングを見下ろす。リバーサイドの吹き抜け全面を開口にした大胆なプランで、どこからも川のせせらぎを感じ、対岸の視線から距離を保てる。

個性が際立つデザインの家具、照明であってもキルティングモチーフ、艶のある素材など、コンセプトが統一していることで絶妙に調和している。モノトーンでまとめることでソファの青が映え、晴れた日は川の水面の色と同化してさらに美しい。

1.吹き抜けを介してLDKと2階がつながる。2階には寝室や浴室などの生活空間をコンパクトにまとめた。キッチン奥にある扉はゴルフレンジがある蔵のなかへつながる。/2.階段側の壁は石張りにして家具のインパクトに負けない重厚さを出した。片持ち階段がアートのように映える。

3.キッチンと一体化したカウンターは休日にはバーに変身。ペンダントライトは繊細なガラスパーツを組み合わせ、「光の彫刻」と呼ばれる名作ジョガーリ。/4.インテリアのテーマは「輝き」。大開口からの自然光が反射しあうよう、ミラーやライト、光沢のある素材を各所に配して華やかに仕上げた。

5.ダイニングの照明は、繊細な光を放つ芸術的な照明で知られるオランダのブランド、モーイのレイモンドをセレクト。キルティングモチーフのチェアもモーイ。/6.吹き抜け部分のシャンデリアも複数灯のレイモンドでスタイリング。

階段を上るとLDK全体を廊下から見下ろせる。モーイのペンダントライト、レイモンドは球体なので、どのアングルから見てもフォルムが変わらないのが特徴。吹き抜けなどの全方位から視線が集まる場所に適している。

7/8.寝室などのプライベートな空間もLDKのムードに合わせた家具選びを心掛けた。子供室の寝室もモノトーン×輝きのある家具でコーディネート。全面ミラーのドレッサーやデスクが昼も夜も華やかな光を放つ。

玄関扉を開いて左手がリバーサイド。鏡を効果的に配して植栽が室内に映り込むようにした。

川の対岸から見た外観。堀で囲っているため、川沿いを歩く人からは内部が見えない。造園デザインは滋賀を拠点とするエクステリアデザイン会社「and collabo」の安堵礼多さんに依頼した。右手奥には保存した蔵も見える。

蔵のなかにはゴルフレンジ兼ホームシアターを設けて、家族や仲間で盛り上がれるスペースにした。蔵に囲まれた二重構造のため、防音効果にも優れている。

同じく蔵の内部に設けられた和室は、ゲストルームとしても活用。離れのような感覚で静かに過ごすことができる。
LDKからも2階からも川面が視界に入るリバーサイドの邸宅
「古きを愛で、今に遊ぶ──。Y邸は敷地自体が他にはない2つの個性をもっています」と京都で多くのSE構法の住宅を設計してきたビルド・ワークスの河嶋一志さん。「1つは敷地の南側に流れる川。岸辺型美観地区であり、吹き抜けを介して2階からも川景色を望めます。玄関には川面や植栽を感じられる地窓を設置し、SE構法ならではの大開口から自然光も取り込んでいます」と河嶋さんは語る。もう1つの個性はなんといっても、築100年の「蔵」。大丸の創業者の邸宅にあったものをYさんの先代が譲り受け、今の地に移築したという歴史的価値のある蔵だ。「新築してもこの蔵は取り壊さず、保存して欲しいというのが母の要望でした」とYさん。その希望もあって、Y邸はこの蔵をぐるりとコの字型に囲むように建てられている。
新築の住居は川沿いの1階フロア全体をLDKとし、2階には寝室や浴室などの生活空間をまとめた。この敷地近くの川の流れは真っ直ぐではなく、ちょうどY邸の前で湾曲している。「目の前の川に向けてだけでなく、玄関や主寝室では、その川の流れる方向へ目線が抜けるように開口部の位置や目線を誘導する設計しました。それにより、さらにヌケを感じる、広々とした眺めが実現しています」と河嶋さん。約70㎡の柱の無い開放的なLDKの中心は、光り輝くキッチン。柔らかなキルティングのように仕上げたステンレス素材だ。「トーヨーキッチンのショールームで一目ぼれし、家のプランを決める前にこのキッチンを軸に空間デザインをしてほしいとお願いしました」と奥さま。艶やかなキッチンの世界観に合わせて、照明器具やソファ、ダイニングセットに至るまでラグジュアリーなデザインを厳選し、コーディネートしたそう。またソファもシステムキッチン「INO」のエアフロー構造をソファに生かした、同じくトーヨーキッチンの「集(つどい)」からセレクトした。
さらに既存の蔵の活用は、「自分たち家族が好きなこと、大事にしている時間は何だろうと考えました。夫婦共通の趣味はゴルフなので、ゴルフの練習用レンジをつくろう。そして娘たちが熱中するゲーム、さらに映画や音楽を鑑賞できるホームシアターにしようと思いついたんです」とYさん。結果、シミュレーションゴルフを備えたゴルフレンジ、大画面でゲームに没頭できるホームシアターを既存の蔵のなかに配することにした。同じスペースをゴルフの練習場とシアターに切り替えられるよう、スクリーンやネットを重ねて設置。古い蔵をそのまま維持するのは困難で、快適な室内環境にするためには膨大なリフォーム代がかかってしまう。「予算内に収めつつ、蔵を保存し、かつ有効に活用するにはどうしたらいいかを考え、提案したのが蔵のなかに部屋をつくるという案でした」と河嶋さん。外壁を一新しながらも蔵の趣きはそのままに。ゴルフレンジ兼ホームシアターを蔵のなかに収める2重構造で、防音機能も高まった。さらに蔵の内部はリノベーションしてゲスト用に和室も新設。生活音が気にならない、離れ感覚の和室が完成した。
古い蔵が新しい命を得て、新しい家と共に次世代に受け継がれるスタート地点となり、これからもY邸の歴史は続いていく。
取材・文/間庭典子
Y邸
設計施工 | ビルド・ワークス | 所在地 | 京都府京都市 |
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家族構成 | 夫婦+子供2人 | 敷地面積 | 344.42㎡ |
延床面積 | 225.72㎡ | 構法 | 木造SE構法 |