角地のパフォーマンスを最大限に引き出した都心の家


南向きのルーフバルコニーを囲むようなL字型のLDK。各所に効果的に設けた窓やトップライトから採光し、どんな天候でも日中は常に明るく保たれる。

壁面には上階のロフトへと導く階段収納を造作した。家族の写真やオブジェを並べて、見せる収納を楽しめるリビングのアイコンとなっている。

陽光が注ぐリビングは、スタジオとしてエクササイズを楽しむ空間でもある。バルコニーを挟むことで外部からの視線も気にならないよう配慮。

ルーフバルコニーに面している明るいダイニングキッチン。収納を十分にとり、食器や調理器具に限らず、書類関係もキャビネットに収まるように計画。北側の天井は斜線制限のために勾配をつけた。

1.キッチンハウスのオートクチュールのキッチンは機能的で個性的。グレーの濃淡で柔らかい印象に仕上げた。/2.ダイニングにはデザイン性の高いテクタのテーブルをアクタスで購入。有機的な曲線が美しく、椅子がフレキシブルに置けるデザインで使いやすい。椅子はあえて違うデザインのものを交ぜて不ぞろいに。ペンダントライトはルイスポールセンPH5のグレーを合わせた。

双子の男の子たちが楽しく過ごせる遊び場兼寝室。両サイドの壁紙をブルー、グリーンとそれぞれのテーマカラーにして、将来は個室として分けられる間取りに。都心の住宅密集地であるため、高い位置に開口部を設けた。

3.リビングの奥には家族が共同で使うカウンターデスクを造作。並んで勉強できるよう、余裕のあるサイズに。机の背面にはランドセルなどを収納する棚を設けている。キッチンから見えにくい間取りで互いの距離が保て、勉強や作業などに集中できる。/4.室内窓やLDKの扉からも採光できるようにガラス素材を多用。さりげなく中の気配が感じられる扉を採用した。

5.主寝室、W.I.C.、子供室などプライベートな空間は1階に集約。天井は落ち着きのある木調壁紙を採用。/6.階段まわりにもキャビネットを設けて、収納として活用。トップライトからも柔らかい光が注ぎ、あたたかみのある空間に。

敷地を有効に利用するために2階をオーバーハングとして駐車場のスペースを確保することに成功。54.14㎡の1階に対し、2階は59.48㎡とゆとりのあるプラン。

7.玄関を入ってすぐのスペースには、手洗いが習慣になるよう洗面台を設置。階段下のスペースを有効活用し、照明が心地よい光となるよう、天井はあえて複雑にデザインしている。デザイン力のある工務店と熟練の職人技による端正な仕上がり。/8.玄関側の外観も2階がせり出して特徴的。
天井高4.2mを実現した光あふれるリビング
角地のメリットを最大限に生かし
デメリットを最小限にする設計
A邸が立つのは東京都山手線内の都心でありながら閑静な住宅街。住宅街用途地域に関しても厳しい条件だが、設計の妙により、角地緩和、準防火地域の準耐火建築物の緩和を図り、土地の持つパフォーマンスを最大限に生かした。「このエリアの土地を探し続け、日当たりのいい角地に出合ったときはうれしかったのですが、規制がこんなに厳しいことは想定外でした」とAさん。隣接する2辺以上が道路に接した角地は日当たりも風通しもよく、快適な環境が約束される反面、周辺の採光を確保するための斜線制限などで、建物の高さ制限など、さまざまな制約がある場合も。例えば角地は建ぺい率が10%緩和されるが、道路の交差部の見通しをよくするために角部分には建てられない隅切りなどの制限があった。さらに長期優良住宅に対して、景観条例による「緑化」が義務付けられているエリアのため環境を守ることも必須。3階建ては不可な条件だったなど、自由な空間が取れないというジレンマが生じたという。「大手住宅メーカーにも相談したのですが、不可能なことが多すぎて、想像以上に厳しい制限に弱気になったこともありました」と奥さま。そんな折、SE構法で家を建てた友人がきっかけでその構法を知り、インターネットを検索。そこで見付けたKURASUに相談した。「驚きました。今まで『できない』と言われて諦めていたことが、すべて『できますよ』という答えだったので(笑)」と振り返る。実際、“NO(ノー)と言わない工務店”を目指しているというKURASU。都心の限られた土地でも、伸び伸びとした空間づくりを得意としており、角地緩和、準防火地域の準耐火建築物の緩和をフルに生かすプランを提案。「SE構法だからこそ実現した、角地のパフォーマンスを最大限に引き出したスマートハウスです」と設計を担当した小針美玲社長。斜線構造の工夫もたくさん盛り込みつつも、耐震等級3を取得し、安全面でも十分に配慮した。
採光とプライバシーを確保する
L字型の開放的なLDK
都心ならではのプライバシーの確保もA邸の課題だった。「目の前には大きなマンションが立っているので、距離感も考慮しつつ、2階全体を大空間のLDKとしました」と小針社長は語る。南西の角をルーフバルコニーとし、そこを囲むようなL字型のLDKとした。「キッチンからバルコニー越しに向かいの桜が見え、ダイニングでお花見を楽しみました」と奥さま。景観条例の厳しい地域ゆえ、各開口から借景が楽しめ、天窓や高窓、室内窓などから十分な採光を確保。天井の形状を工夫することで斜線制限の融和に成功した。壁面の階段状の棚から続くロフト階や奥のスタディコーナーなど、心地よい居場所も設けられている。
2階が広いオーバーハングで
敷地内に駐車することも可能に
駐車場のためだけに敷地を割り当てるのはプランに制限が出てしまう。「SE構法では2階をせり出す設計も可能なので、2カ所をオーバーハングにして駐車スペースを確保しました」と小針社長。自転車2台も屋根の下に置ける。さらにリビングの壁面はロフトへの階段を兼ねた収納棚を動線上に配し、洗面所も設置。このような空間を最大限に生かす工夫が各所に。「家造りは一世一代の大仕事。家造りは楽しい!と思っていただくためにも、NOとは言いません!」と小針社長。デザイン力のある工務店によって、理想の家が実現した。
取材・文/間庭典子
A邸
設計施工 | KURASU | 所在地 | 東京都 |
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家族構成 | 夫婦+子供2人 | 敷地面積 | 87.37㎡ |
延床面積 | 113.62㎡ | 構法 | 木造SE構法 |