緑一面の絶景を見下ろす山麓の家








緑一面の絶景を
見下ろす山麓の家
比叡山の絶景を望む緑に包まれた環境を生かす
F邸が立つのは比叡山のふもと。京都の中心部から叡山鉄道で北上した終点駅近くにあたる緑あふれる山麓で、週末には川遊びに訪れる人も多い場所だ。傾斜のある土地の高い位置に家を建てたことにより、そのLDKから見下ろす風景はまさに絶景。四方を山に囲まれ、自然の懐に包まれたような安心感がある。また、雲海が広がる朝の景色も幻想的だ。京都御所周辺から電車で約15分の場所にありながら、天空に来たような清々しさを感じる。
「週末は山々を見渡すバルコニーで朝食をとり、そのまま数時間過ごしてしまうことも。6年前に洛中(京都中心部)から越してきたときには3mくらいだった家の周りのクヌギやナラが、今では8m以上に生長しています」とご主人。「芝生を植えなくてはと思っていた裏庭には苔が生え、和室の窓からの景色も緑一面になりました」。
家づくりを始めた当初から、そんな恵まれた自然環境を生かすため、開口部が大きくて多い――どの部屋からも緑を取り込める設計を希望していた。出来上がったのは、大開口のある1階のLDKに加えて、1階にも2階にも屋外で過ごせるバルコニーやテラスを設けた開放感のある家。2階の寝室と和室の屋根の間にある屋上テラスからは月がよく見える。ご夫妻は今、この山荘でしかかなわない暮らしを楽しんでいる
手がかかるからこそ愛おしいヴィンテージカーのような家
「メンテナンスフリーとは言えません。手のかかるヴィンテージカーのような家なんです」とご主人は言う。タクシーも上ってこられないほどの高台にあり、長い階段を登らないと玄関にたどり着けない。常に湿度の高い地域のため、1時間に10分は除湿器が作動する設定にしている。しかし、誰にでもおすすめできる便利さはないが、この家にしかない快適さと代えがたい眺望がある。「都会に住み、レストランをめぐるような生活もいいとは思うのですが、ちょうど新築を考えたころにヴィンテージカーを好きになり、広いガレージと作業音が気にならない環境がほしくなったんです」というご主人の秘密基地は、地下のガレージ。その隣にはワインセラーもある。ほこりも立ち、ガソリンのにおいもするけれど、ここで作業しながら飲むお酒がいちばんおいしいとか。お供は愛車の「フィアット アバルト 850 クーペ スコルピオーネ」だ。
工具が詰まった棚はご主人が自らつくった。リビングにある薪を保管する棚やワインクーラーをつくりつけたテーブルなども、用途に合わせて自分で設計したそう。「この家に住む前は何もできなかったのですが、必要に迫られて(笑)。冬には薪を割り、今では何でもつくれるようになりました」とご主人は胸を張る。
特別な時間が生まれる場所を自分たちが築き、住み継ぐ
多趣味なご主人は、知り合いから譲り受けたヨットも所有している。「これも40年以上前のヴィンテージで、不具合も多いのですよ」と愛しそうに話す。また、ご夫妻で趣味としているロードバイクでサイクリングをすることも多いが、平坦な道ばかりでは飽きてしまうと語る。「この周辺は峠の登りが厳しいけれど、その先に見える風景は格別です」。
ひと時の喜びのためにも手間や労力を惜しまない。その姿勢はお二人の人生観を象徴している。「松村佳久男さんの手がけた家を見たとき、この人なら価値観を理解してくれると確信しました」。世代も近い松村さんとは意気投合し、全面的に設計をゆだねた。木造で大空間、大開口を実現するにはSE構法しかないと知り、施工はその構法が得意なビルド・ワークスに依頼した。そうして実現した山麓の家。「世話の焼けるこの家を大事に住み継いでいきます」とご夫妻は語る。
取材・文 間庭 典子
K邸
設計 | 松村佳久男(カクオ・アーキテクト・オフィス) | 施工 | ビルド・ワークス |
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所在地 | 京都府京都市 | 家族構成 | 夫婦+愛犬 |
延床面積 | 197.27㎡ | 構造・構法 | RC造+SE構法 |