空へ空へと広がる和モダンの邸宅
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空へ空へと広がる
和モダンの邸宅
表情豊かな中庭が
採光と防犯性を可能に
玄関を開くと正面には石と緑の端正な坪庭、左手には3層を貫くまっすぐな竹。階段を上がると本格的な日本庭園が広がり、次の階にはさらに約10畳大のテラスが開ける。次々に庭が展開し、空へとつながっていくドラマティックな邸宅だ。
何度も自宅を建て替えたことがあるというWさんの要望は「充分な採光」「防犯性の強化」、そして「和モダン」だった。Wさんはそれが満たされればすべてを任せるという覚悟で、素材選びから家具のセレクトまで、テラジマアーキテクツに一任した。
設計を担当した深澤さんが「充分な採光」と「防犯性の強化」という相反する要望をかなえるための装置として提案したのが幾層にも連なった中庭だ。
法規上地下となる下のフロアはRC造、1階、2階は木造のSE構法を採用。土台を固め、1階の日本庭園を囲む寝室と茶室、2階のテラスと連なるLDKなど、くつろぎの空間は木の温もりややわらかさを生かした。和をイメージしたシンプルモダンな室内のどこにいても、SE構法ならではの大きな開口部からそれぞれ違った趣の庭園が眺められ、風や光、季節の移ろいを感じることができる。
「主人は『家』が趣味。テラスで朝食をとり、本を読み、週末はここで一日過ごすこともあります」と奥さま。ゲストを100人以上を集めてのパーティを開いたことがあるほどの、広々とした大空間。そこは城壁に守られた城のような安心感がある。
伝統的を守りながらも
新鮮さが光る「和モダン」
3つめの要望である、伝統に縛られない「和モダン」なデザイン。シンプルな中に、格子や縞など、和の文様を連想させるあしらいをちりばめた。国産のナラ材を用い、備え付けのキャビネットやオーダーメイドのテーブルなども無垢材で統一。色みやテクスチャーを揃えるため、すべて同じ製作所から取り寄せた。
能楽師の家に生まれたご主人は、ビジネスの第一線で活躍する今でも舞台に立ち、舞うことがあるそう。奥さまもまた、ご結婚前から能楽をたしなみ、同じく演者として舞台に立つ。公演前には、2階のLDKを能舞台に見立ててリハーサルをすることもあるという。「ダイニングからリビングに向かうこの道が、ちょうど舞台に続く『橋掛かり』のようでしょ?」と奥さま。床板の幅も広くなめらかで、すり足の足さばきの妨げにならない。テラスから青空へと広がる開放感は屋外の能舞台そのものだ。
観世流の能楽師である甥御さんが京都から訪れ、ご夫妻のお稽古のために滞在するときは、一階の茶室がゲストルームになる。向かいのご夫妻の寝室とはぬれ縁で隔たれ、ほどよい距離感が保たれている。日常の中で静寂を感じる空間だ。
美意識を共有した職人が
集結し、和の設えを追求
モダンでありながら重厚さが伝わるのは、細部まで質を極めた「本物の素材と技」故だ。設計施工完全自社一貫性を誇るテラジマアーキテクツでは、65職種の職方を束ね、設計士と現場の職人が連携してその世界観を築いている。「伝統的な日本庭園、ぬれ縁、網代天井などの和の意匠を、職人さんの手によって仕上げていただきました」と奥さま。和室の網代天井はすっきりと明るい印象のハイノキを使用し、モダンさを出した。同じ志をもった職人が集結し、和室の丸窓障子や収納建具無良戸(まいうど)など、細部に至るまで、和の設えを追求した。
理想通りの住まいとなったのはプロに全面的にゆだねたから、とWさんは語る。「『すべて任せていただく』ということは、全責任を負うということでもあります。慎重にWさんの『潜在的な要望』をくみ上げ、具現化するよう努めました」と深澤さんは振り返る。
住まいは生活の舞台でもある。理想の家づくりの何よりの味方は、美意識を共有し、ともに理想を追求してくれる家づくりのパートナーだとご夫妻は実感している。
取材・文 間庭 典子
W邸
設計 | 深澤彰司 | 施工 | 株式会社テラジマアーキテクツ |
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所在地 | 東京都世田谷区 | 家族構成 | 夫婦+子供一人 |
敷地面積 | 180.09㎡ | 延床面積 | 304.46㎡ |