借景が生きる羽根木の家
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借景を生かした
開放的なZEN空間
一人でもみんなで集う時間も
和めるゆとりの大空間
エントランスホールから大きな階段を上がると大空間が広がる。2階は50人近くのゲストを招いてのパーティも可能な、71㎡のLDK。近隣の緑が目に鮮やかだ。「まさに借景ですよね」とHさん。この一帯の地主さんの家訓が「木を伐採せず残すべし」であったため、周囲には見事な巨木が今も多く残り、羽根木の森と呼ばれている。梅や桜、紅葉など季節の移り変わりが感じられる環境だ。景観を楽しむために、木造でありながら柱や壁がないために視界を遮らず、耐震性に優れたSE構法を選んだという。それによって天井高3.3mの大胆な空間構成が可能になった。1階には、英語教育の第一人者であるご主人のオフィスや寝室などの居住空間があるが、お二人は明るく緑に包まれた2階のダイニングで終日作業することが多いそうだ。
リビングにはB&Bイタリアの「チャールズ」の大きなL字型ソファや、美しい音を奏でるバウアーズ&ウィルキンスのスピーカーがある。オーディオ機器は黒檀のキャビネットに収めて壁になじませている。単調になりがちな壁面は、石や木など質感の違う自然素材を重ねることでリズムが生まれた。効率的な温度調節も考慮し、エントランスホールへと続く境界は障子で仕切れるように。「キッチン上の天窓にも和紙を張っていて、紙独特のやわらかな光が透過します」と語るのは設計を担当した可児さん。
木材や石を吟味し
素材を重ねることで調和が生まれる
理想の邸宅を実現するために可児さんが最初にご夫婦それぞれに出した課題は「大空間のLDK」「くつろげる檜風呂」など、具体的な条件のリストアップ。そして雑誌などから気に入ったカットを選び、コラージュすることだった。「お二人とも美意識が高く、理想のイメージが洗練されていたので、材料選びから厳選しました」。
遠方まで直接足を運び、ご夫婦と可児さんで木や石などさまざまな素材を吟味した。オブジェのような存在感の玄関石は、白石蔵王の山で出会ったもの。玄関扉の重厚な黒檀などの木材は、クルーズトレイン「ななつ星in九州」の内装などを手掛けたヒノキ工芸へ出向いて選んだ。庭に植えた楓は、紅葉の時期に都内近郊3か所の植林地をまわり、赤、黄と多彩に色が変化する1本を見つけ出したそう。「家づくりを通じて建築や文化の勉強だけでなく、生きる姿勢のようなものを学びました」とHさん。
玄関扉の黒檀をオーディオまわりのキャビネットに、外壁に使用した十和田石をキッチンカウンターやバスルームにも使用するなど、外装の素材をインテリアにも取り入れた。
常識にとらわれない発想の転換が
現実的な着地点へのヒントに
本物志向のお二人の、時にはブレーキ役にもなった可児さん。ご主人が当初、希望した総檜風呂もメンテナンスを考えると浴槽への使用は避け、壁のみに檜材を採用し香りを楽しむのが現実的、と指摘。「ホテルや商業施設など多く実績があるからこその、経験に基づくアドバイスが頼りになりました」とHさんは語る。高価なウォールナットの柱は木目が整ったものではなく、あえて柄が入ったものをデザインととらえて選び、リビングとダイニングの上部には、色が違う廉価な無地のクロスをモダンアートのように貼るなど、アイデアによってコストを抑える工夫もしている。
オフィスの受付や打ち合わせスペースとして使用することも考慮した広いエントランスホールには、アーティスティックな志向のHご夫妻にふさわしい版築を採用。法隆寺の壁にも施された古代から伝わる技法だ。目線がいく高さに、奥さま自らが金箔を描き足して仕上げた。
モダンな大空間に自然の素材や和の要素を調和させた、ZENスタイルのような風格のある邸宅が生まれた。
設計・施工 クウェスト >
取材・文 間庭 典子
H邸
設計 | 可児義貴 | 施工 | クウェスト株式会社 |
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所在地 | 東京都世田谷区 | 家族構成 | ご夫婦 |
敷地面積 | 175㎡ | 延床面積 | 165㎡ |